TOPPERS/ASP3カーネル ユーザーズマニュアル 対応バージョン: Release 3.1 最終更新: 2016年5月13日 このドキュメントは,TOPPERS/ASP3カーネルを使用するために必要な事項を説 明するものである. このドキュメントでは,TOPPERS組込みコンポーネントシステム(TECS)をシス テムサービスの構築にのみ用い,アプリケーションプログラムはC言語により記 述することを想定している.アプリケーションプログラムを含むシステム全体 をTECSを用いて構築する方法については,以下のURLにあるTECSリファレンスマ ニュアルを参考にすること. http://dev.toppers.jp/trac_user/tecs/wiki/WikiStart ---------------------------------------------------------------------- TOPPERS/ASP Kernel Toyohashi Open Platform for Embedded Real-Time Systems/ Advanced Standard Profile Kernel Copyright (C) 2005-2016 by Embedded and Real-Time Systems Laboratory Graduate School of Information Science, Nagoya Univ., JAPAN 上記著作権者は,以下の(1)〜(4)の条件を満たす場合に限り,本ソフトウェ ア(本ソフトウェアを改変したものを含む.以下同じ)を使用・複製・改 変・再配布(以下,利用と呼ぶ)することを無償で許諾する. (1) 本ソフトウェアをソースコードの形で利用する場合には,上記の著作 権表示,この利用条件および下記の無保証規定が,そのままの形でソー スコード中に含まれていること. (2) 本ソフトウェアを,ライブラリ形式など,他のソフトウェア開発に使 用できる形で再配布する場合には,再配布に伴うドキュメント(利用 者マニュアルなど)に,上記の著作権表示,この利用条件および下記 の無保証規定を掲載すること. (3) 本ソフトウェアを,機器に組み込むなど,他のソフトウェア開発に使 用できない形で再配布する場合には,次のいずれかの条件を満たすこ と. (a) 再配布に伴うドキュメント(利用者マニュアルなど)に,上記の著 作権表示,この利用条件および下記の無保証規定を掲載すること. (b) 再配布の形態を,別に定める方法によって,TOPPERSプロジェクトに 報告すること. (4) 本ソフトウェアの利用により直接的または間接的に生じるいかなる損 害からも,上記著作権者およびTOPPERSプロジェクトを免責すること. また,本ソフトウェアのユーザまたはエンドユーザからのいかなる理 由に基づく請求からも,上記著作権者およびTOPPERSプロジェクトを 免責すること. 本ソフトウェアは,無保証で提供されているものである.上記著作権者お よびTOPPERSプロジェクトは,本ソフトウェアに関して,特定の使用目的 に対する適合性も含めて,いかなる保証も行わない.また,本ソフトウェ アの利用により直接的または間接的に生じたいかなる損害に関しても,そ の責任を負わない. $Id: user.txt 752 2016-05-14 15:06:22Z ertl-hiro $ ---------------------------------------------------------------------- ○目次 1.TOPPERS/ASP3カーネルの概要 1.1 TOPPERS/ASP3カーネルの位置付け 1.2 TOPPERS/ASP3カーネルの仕様 1.3 マイグレーションガイド 1.4 機能拡張・チューニングガイド 1.5 既知の問題 1.6 Cygwin環境における注意事項 2.ターゲット依存部 2.1 ターゲット依存部の概要 2.2 簡易パッケージ 2.3 個別パッケージ 3.クイックスタートガイド 3.1 開発環境の準備 3.2 TECSジェネレータの準備 3.3 サンプルプログラムの構築と実行 3.4 カーネルを関数単位でライブラリ化する方法 3.5 アプリケーションとカーネルを別々に構築する方法 4.ディレクトリ構成・ファイル構成 4.1 配布パッケージのディレクトリ構成 4.2 ターゲット非依存部のファイル構成 5.コンフィギュレーションスクリプトの使い方 6.標準のMakefileの修正方法 6.1 Makefileの変数定義 6.2 コンパイルオプション 7.コンフィギュレータの使い方 7.1 コンフィギュレータの起動 7.2 タイマドライバの組込み 8.システムサービス 8.1 システムログ機能 8.1.1 システムログ機能の位置付け 8.1.2 ログバッファへの記録と低レベル出力 8.1.3 ログ情報の種別 8.1.4 ログ情報の重要度 8.1.5 ログ情報のデータ構造 8.1.6 システムログ機能のサービスコール 8.1.7 システムログ機能のためのライブラリ関数とマクロ 8.1.8 システムログ機能の組込みと取外し 8.2 シリアルインタフェースドライバ 8.2.1 シリアルインタフェースドライバのサービスコール 8.2.2 シリアルインタフェースドライバのその他のサービス 8.2.3 シリアルインタフェースドライバの組込みと取外し 8.3 システムログタスク 8.3.1 システムログタスクの機能 8.3.2 システムログタスクのその他のサービス 8.3.3 システムログタスクの組込みと取外し 8.4 実行時間分布集計サービス 8.4.1 実行時間分布集計サービスの概要 8.4.2 実行時間分布集計サービスのサービスコール 8.4.3 実行時間分布集計サービスの組込みと取外し 8.5 カーネル起動メッセージ出力 9.サポートライブラリ 9.1 基本的なライブラリ関数 9.2 キュー操作ライブラリ関数 9.3 システムログ出力用ライブラリ関数 10.テストプログラム 10.1 テストプログラム用サービス 10.1.1 テストプログラム用サービスのサービスコール 10.1.2 テストプログラム用サービスの組込みと取外し 10.2 カーネルの整合性検査 10.3 機能テストプログラム 10.4 システム時刻管理機能テストプログラム 10.5 性能評価プログラム 11.使用上の注意とヒント 11.1 実行時間と割込み禁止時間に関する注意事項 11.2 assertマクロの処理 11.3 システムログ機能の扱い 11.4 オブジェクトIDの管理 11.5 カーネルの内部シンボルのリネーム 11.6 トレースログ記録のサンプルコードの使用方法 11.7 システムの起動時の初期化処理 11.8 rodataセクションをRAMに置く場合 12.参考情報 12.1 利用条件と利用報告 12.2 保証・適用性・サポート 12.3 バグレポート 12.4 ウェブサイト 12.5 TOPPERSユーザーズメーリングリスト 12.6 TOPPERSプロジェクトのメンバ向けのサービス 12.7 TOPPERSプロジェクトへの参加 13.リファレンス 13.1 サービスコール一覧 13.2 静的API一覧 13.3 バージョン履歴 1.TOPPERS/ASP3カーネルの概要 1.1 TOPPERS/ASP3カーネルの位置付け TOPPERS/ASP3カーネル(以下,ASP3カーネル)は,TOPPERS/ASPカーネルを拡張・ 改良したもので,TOPPERS第3世代カーネル(ITRON系)の基盤となるものとして 開発したリアルタイムカーネルである. TOPPERS/ASPカーネルは,μITRON4.0仕様のスタンダードプロファイル準拠のリ アルタイムカーネルであるTOPPERS/JSPカーネルを拡張・改良する形で開発した ものである. 1.2 TOPPERS/ASP3カーネルの仕様 ASP3カーネルの仕様の概要については,「TOPPERS/ASP3カーネルの仕様概要」 を参照すること.また,ASP3カーネルを含むTOPPERS第3世代カーネル(ITRON系) の仕様の詳細については,別途PDFファイルの形で配布している「TOPPERS第3世 代カーネル(ITRON系)統合仕様書(Release 3.1.0)」を参照すること. カーネル仕様の中で,ターゲット定義事項については,ターゲット依存部ディ レクトリにあるターゲット依存部のユーザーズマニュアルを参照すること. 1.3 マイグレーションガイド 従来のTOPPERSカーネルや他のμITRON4.0仕様準拠のカーネルから,ASP3カーネ ルに移行するための方法(またはヒント)を説明した「TOPPERS/ASP3カーネル へのマイグレーションガイド」を用意している.必要に応じて参照すること. 1.4 機能拡張・チューニングガイド ASP3カーネルを,機能拡張・チューニングするための方法(またはヒント)を 説明した「機能拡張・チューニングガイド」を用意している.拡張パッケージ の使用方法は,「機能拡張・チューニングガイド」に含まれている.必要に応 じて参照すること. 1.5 既知の問題 割込みサービスルーチンの先頭番地(CRE_ISRのisr),割込みハンドラの先頭 番地(DEF_INHのinthdr),CPU例外ハンドラの先頭番地(DEF_EXCのexchdr), 初期化ルーチンの先頭番地(ATT_INIのinirtn),終了処理ルーチンの先頭番地 (ATT_TERのterrtn)がプログラムの開始番地として正しくない場合のエラーは, コンフィギュレータによって検出されない場合がある(ターゲットにも依存). kernel_cfg.c(およびcfg1_out.c)は,カーネル,システムサービス,アプリ ケーションのいずれのインクルードファイルもインクルードし,いずれのシン ボルも参照する可能性がある.そのため,カーネル,システムサービス,アプ リケーションでシンボル等が衝突している場合や,コンパイルオプションが食 い違っている場合に,kernel_cfg.c(およびcfg1_out.c)が正しくコンパイル できなくなる場合が考えられる.カーネルのシンボルをリネームするなどの方 法で軽減されてはいるが,問題がなくなっているわけではない. システムコンフィギュレーションファイルから,コンフィギュレータに対する INCLUDEディレクティブにより他のコンフィギュレーションファイルをインクルー ドしている場合に,その中に含まれるC言語プリプロセッサのインクルードディ レクティブ(#include)で,コンフィギュレーションファイルの置かれている ディレクトリが,ファイルを検索するパスに入らないという問題がある. 現時点では,アドレスが64ビットの環境には対応していない.64ビットアドレ ス環境をサポートするための最大の課題は,モトローラSレコードフォーマット が64ビットアドレスに対応していないことである. 1.6 Cygwin環境における注意事項 Cygwin環境においては,ディレクトリの指定を相対パスで行うことを推奨する. これは,Cygwin環境の絶対パスは,Windowsネイティブでビルドされたツールは 解釈できないためである. 2.ターゲット依存部 2.1 ターゲット依存部の概要 ASP3カーネルのターゲット非依存部と,各種のターゲットシステムに対応する ためのターゲット依存部は,別々に開発されている.そのため,ASP3カーネル が対応しているすべてのターゲット依存部を,バージョンを整合させてパッケー ジ化することは困難である.そこで,主に初級のユーザを対象にした簡易パッ ケージと,上級のユーザやカーネル開発者を対象にした個別パッケージを用意 している. ASP3カーネルを未サポートのターゲットシステムへポーティングするために必 要な作業は,開発環境の構築と標準の開発環境との差異の吸収,カーネル自身 のポーティング,システムサービスのポーティングなどからなる.詳しくは, 「ターゲット依存部 ポーティングガイド」を参照すること. 2.2 簡易パッケージ 簡易パッケージは,ASP3カーネルが対応しているターゲットシステム毎に用意 され,そのターゲットシステム上でASP3カーネルを動作させるために必要なファ イル一式をパッケージ化したものである.簡易パッケージに含まれるファイル は,バージョンが整合していることが確認されている. 簡易パッケージのバージョン番号は,パッケージ化した日付とすることを原則 とするが,ターゲットシステム毎の事情によりこの原則に従わない場合がある. 簡易パッケージは,基本的には,次に説明する個別パッケージを複数まとめた ものである.そのため,対象ターゲットシステムに必要のないファイルも含ま れている.また,簡易パッケージに含まれている個別パッケージのバージョン は,個別パッケージのMANIFESTファイルを参照することで知ることができる. 2.3 個別パッケージ 個別パッケージは,ASP3カーネルの開発単位毎に,その開発単位で開発を担当 しているファイル一式をパッケージ化したものである.ASP3カーネルのターゲッ ト非依存部も,一つの個別パッケージとして配布される.ある個別パッケージ を使用するためには,一般には,他の個別パッケージが必要となる.ターゲッ ト依存部の個別パッケージを使用するために必要となる個別パッケージとその バージョンについては,ターゲット依存部のユーザーズマニュアルを参照する こと.使用する個別パッケージのバージョンを整合させることは,ユーザの責 任である. 個別パッケージのバージョン番号は,X.Y.Zの形で表現される.ターゲット非依 存部のバージョン番号を,ASP3カーネル全体のリリース番号とする.ターゲッ ト依存部のバージョン番号は,XとYが,それが依存するターゲット非依存部と 一致している.それに対して,Zは一致しているとは限らない.例えば,ターゲッ ト非依存部のバージョン3.1.0に対応するターゲット依存部は,バージョン 3.1.Zの形となる.ターゲット依存部のみがバージョンアップした場合には,Z が変更される. 使用する個別パッケージは,次の例のように,ターゲット非依存部の個別パッ ケージを展開したのと同じディレクトリで展開する. % tar xvfz asp3-3.1.0.tar.gz % tar xvfz asp3_arch_arm_gcc_3.1.2.tar.gz ターゲット非依存部の個別パッケージには,以下のターゲット依存部が含まれ ているが,これは,ASP3カーネルを新しいターゲットシステムにポーティング する際の出発点とするために用意したものである. target/dummy_gcc ダミー(GNU開発環境)のターゲット依存部 まずはこれをターゲットシステム向けの開発環境でビルドし,その後,各ファ イルの内容をターゲットシステム向けに修正していくことを想定している. 3.クイックスタートガイド ここでは,ターゲット依存部が用意されているターゲットシステム上で,ASP3 カーネル上で動作するサンプルプログラムを構築・動作させるまでの手順を示 す. 3.1 開発環境の準備 ASP3カーネルを用いたシステム構築には,以下のツールが必要である. ホストシステム用のツール GNU Make 動作確認:3.81 ruby 動作確認:2.0.0 TOPPERS第3世代カーネル向け Ruby版コンフィギュレータ cfg 動作確認:1.2.1 TOPPERS組込みコンポーネントシステム(TECS)ジェネレータ tecsgen 動作確認:1.3.1.7 ターゲットシステム用のツール(クロス開発環境) 標準規格に準拠したCコンパイラ アセンブラ,リンカ,ライブラリアン シンボルファイル出力ツール,ヘキサファイル出力ツール 標準Cライブラリ(必須ではない) ASP3カーネルでは,文字コードをUTF-8に統一しているが,Windows環境でruby を用いると,デフォルトの文字コードがWindows-31Jになり,エラーとなる場合 がある.このような環境では,rubyの起動時オプションに「-Eutf-8」を指定す る必要がある.より具体的には,「set RUBYOPT=-Eutf-8」により,rubyのデフォ ルトのオプションを指定する方法を推奨する. ターゲットシステム用のツールにGNU開発環境を用いる場合には,以下のツール が必要である. ターゲットシステム用のGNU開発環境ツール BINUTILS(as,ld,ar,nm,ranlib,objcopy,objdump) GCCまたはGCC-CORE(gccおよびそこから呼び出されるツール) NEWLIB(標準Cライブラリ,必須ではない) 動作確認されているターゲットシステム用のツールについては,ターゲット依 存部のユーザーズマニュアルを参照すること. ターゲットシステム用の標準Cライブラリは,アプリケーションが標準Cライブ ラリを使用しない場合には,必要ない.ただし,コンパイラが標準Cライブラリ 関数(memcpy,memsetなど)を呼び出すコードを生成する場合があり,その場 合には標準Cライブラリが必要である.標準Cライブラリを用意する代わりに, 生成したコードが呼び出す関数のみを自分で用意してもよい. 以下では,これらのツールが用意できていることを前提に,UNIXマシン上での 構築手順を説明する.また以下の説明では,makeコマンドがGNU Makeであるも のとする(ASP3カーネルの標準のMakefileは,GNU Makeの拡張機能を用いてい る). なお,TOPPERS第3世代カーネル向け Ruby版コンフィギュレータは,ASP3カーネ ルのパッケージに含まれているため,特別な準備は必要ない. 3.2 TECSジェネレータの準備 まず,TOPPERS組込みコンポーネントシステム(TECS)のジェネレータを準備す る必要がある.TECSジェネレータが,ASP3カーネルの簡易パッケージに含まれ ていた場合には,このステップは省略することができる. TECSジェネレータは,TECSジェネレータの個別パッケージに含まれている. TECSジェネレータの個別パッケージを任意の場所に展開し,その下のtecsgenディ レクトリを,ASP3カーネルのソースファイルを展開したディレクトリからシン ボリックリンクをはる(コピーしてもよい).つまり,ASP3カーネルのソース ファイルのディレクトリからtecsgen.rbへの相対パスが,tecsgen/tecsgen.rb となればよい.下の手順は,TECSジェネレータのパッケージを,asp3の親ディ レクトリに展開する場合の例である. % tar xvfz tecsgen-1.3.1.7.tgz % cd asp3 % ln -s ../tecsgen/tecsgen . % file tecsgen/tecsgen.rb tecsgen/tecsgen.rb: a ruby script text executable 以下で説明する標準の手順では,TECSジェネレータをRubyスクリプト(テキス トファイル形式)のまま実行するが,Windows環境では,Exerbを用いて実行形 式ファイルに変換して実行する方法もある. TECSジェネレータを上記以外の場所に置いた場合や,Windows実行形式のTECSジェ ネレータを用いる場合には,コンフィギュレーションスクリプトの-Gオプショ ンで,TECSジェネレータのパス名を指定すればよい. なお,TECSジェネレータのバージョンを確認したい場合には,tecsgenを --versionオプションをつけて実行すればよい. 3.3 サンプルプログラムの構築と実行 次に,ASP3カーネル上で動作するサンプルプログラムを構築する方法を説明す る. まず,サンプルプログラムのオブジェクトファイルを置くディレクトリを作成 し,コンフィギュレーションスクリプトを実行する.例えば,オブジェクトファ イルを置くディレクトリを,ASP3カーネルのソースファイルを展開したディレ クトリの下のOBJという名称のディレクトリにする場合には,次のコマンドを実 行する(ディレクトリの場所と名称は任意に決めてよい.ただし,場所を変え る場合には,configure.rbの相対パスも変更が必要である.以下同様). % mkdir OBJ % cd OBJ % ruby ../configure.rb -T <ターゲット略称> ここで,<ターゲット略称>は,targetディレクトリの下に置かれているターゲッ ト依存部ディレクトリの名称である.コンフィギュレーションスクリプトのオ プションについては,「5.コンフィギュレーションスクリプトの使い方」の 章で説明する. コンフィギュレーションスクリプトの実行により,カレントディレクトリには, サンプルプログラムを構築するためのMakefileが生成される. コンフィギュレーションスクリプトの実行後,必要であればMakefileを修正す る.Makefileの修正方法については,「6.標準のMakefileの修正方法」の章 で説明する. その後,makeコマンドによりサンプルプログラムのロードモジュール(aspまた はasp.exe)が生成できる. % make ここで構築したサンプルプログラム(sampleディレクトリのsample1.h, sample1.c,sample1.cfg,sample1.cdl)は,ASP3カーネルの基本的な動作を確 認するためのものである.このプログラムの概要説明は,sample1.cの先頭のコ メントにある. 3.4 カーネルを関数単位でライブラリ化する方法 前節の手順では,カーネルをファイル単位でコンパイルし,ライブラリ化して いたが,カーネルのコードサイズを縮小するためには,使用しないサービスコー ルはリンクしない方が望ましい.そこでASP3カーネルでは,カーネルを関数単 位でコンパイルし,ライブラリ化する方法を用意している. この方法でサンプルプログラムを構築するには,コンフィギュレーションスク リプトに,それを指示するオプション(-f)を付加するだけでよい.例えば, オブジェクトファイルを置くディレクトリを,ASP3カーネルのソースファイル を展開したディレクトリの下のOBJという名称のディレクトリにする場合には, 次のコマンドを実行する. % mkdir OBJ % cd OBJ % ruby ../configure.rb -T <ターゲット略称> -f % make 3.5 アプリケーションとカーネルを別々に構築する方法 前節で説明した方法では,アプリケーションとカーネルを同時に生成するため, オブジェクトファイルを置くディレクトリに非常に多くのファイルが作成され て,扱いにくくなる.そこで,カーネルを修正する頻度が低い場合には,カー ネルは事前に構築しておき,後でアプリケーションだけを構築する方法を用意 している.以下では,サンプルプログラムを構築を例に,その手順について説 明する. まず,カーネルを構築するディレクトリを作成し,コンフィギュレーションス クリプトを実行する.例えば,カーネルを構築するディレクトリを,ASP3カー ネルのソースファイルを展開したディレクトリの下のKERNEL_LIBという名称の ディレクトリにする場合には,次のコマンドを実行する. % mkdir KERNEL_LIB % cd KERNEL_LIB % ruby ../configure.rb -T <ターゲット略称> -f % make libkernel.a これにより,カーネルを構築するディレクトリに,カーネルライブラリ (libkernel.a)が生成される. 次に,アプリケーションを構築するディレクトリを作成し,コンフィギュレー ションスクリプトを実行する.例えば,アプリケーションを構築するディレク トリを,ASP3カーネルのソースファイルを展開したディレクトリの下のAPLとい う名称のディレクトリにする場合には,次のコマンドを実行する. % cd .. % mkdir APL % cd APL % ruby ../configure.rb -T <ターゲット略称> -L ../KERNEL_LIB % make ここで-Lオプションには,カーネルを構築したディレクトリのパスを指定する. この手順では,アプリケーション構築時にはカーネルの再構築が必要かチェッ クしないため,カーネルのソースコードを修正した場合には,カーネルを構築 したディレクトリでmake libkernel.aを再実行する必要がある. 以上では,カーネルとアプリケーションを別々のディレクトリで構築したが, -Lオプションにカレントディレクトリ(ただし,"."という記述では不可)を指 定することで,カーネルとアプリケーションを同じディレクトリで別々に構築 することもできる.具体的には,次の手順となる. % mkdir OBJ % cd OBJ % ruby ../configure.rb -T <ターゲット略称> -L ../OBJ % make libkernel.a % make cleankernel % make ここで,make cleankernelは,カーネルライブラリを生成するための中間ファ イルを削除するものである.この手順では,カーネルライブラリに関する依存 関係をインクルードしないため,カーネルのソースコードを修正した場合には, 必ずmake cleankernel(または,make clean)してから,make libkernel.aす る必要があるので注意すること. 4.ディレクトリ構成・ファイル構成 4.1 配布パッケージのディレクトリ構成 doc/ ドキュメント include/ アプリケーション向けヘッダファイル kernel/ カーネルのソースファイル tecs_kernel/ TECSからカーネルを呼び出すためのソースファイル syssvc/ システムサービスのヘッダファイル,ソースファイル library/ サポートライブラリのソースファイル target/ ターゲット依存部 arch/ ターゲット依存部の共通部分 gcc/ GCC開発環境依存部 logtrace/ トレースログ記録のサンプルコード cfg/ コンフィギュレータ doc/ コンフィギュレータのドキュメント utils/ ユーティリティプログラム sample/ サンプルプログラムとMakefile test/ テストプログラム extension/ 拡張パッケージ 4.2 ターゲット非依存部のファイル構成 ターゲット非依存部(テストプログラムと拡張パッケージは除く)の各ファイ ルの概要は次の通り. README.txt TOPPERS/ASP3カーネルの簡単な紹介 configure.rb コンフィギュレーションスクリプト(GNU開発環境用) MANIFEST 個別パッケージのファイルリスト doc/ user.txt ユーザーズマニュアル asp_spec.txt TOPPERS/ASP3カーネルの仕様概要 migration.txt TOPPERS/ASP3カーネルへのマイグレーションガイド extension.txt 機能拡張・チューニングガイド porting.txt ターゲット依存部 ポーティングガイド configurator.txt コンフィギュレータ仕様 design.txt 設計メモ version.txt 変更履歴 include/ kernel.h ASP3カーネルを使用するための定義 sil.h システムインタフェースレイヤを使用するための定義 t_stddef.h TOPPERS共通ヘッダファイル itron.h ITRON仕様共通規定のデータ型・定数・マクロ t_syslog.h システムログ出力を行うための定義 t_stdlib.h 基本的なライブラリ関数を使用するための定義 queue.h キュー操作ライブラリを使用するための定義 log_output.h システムログのフォーマット出力を使用するための定義 kernel/ Makefile.kernel カーネルのファイル構成の定義 kernel_impl.h カーネル実装用標準ヘッダファイル kernel_int.h kernel_cfg.c用のヘッダファイル kernel_rename.def カーネルの内部識別名のリネーム定義 kernel_rename.h カーネルの内部識別名のリネーム kernel_unrename.h カーネルの内部識別名のリネーム解除 kernel_api.def コンフィギュレータの静的APIテーブル kernel_sym.def コンフィギュレータの値取得シンボルテーブル kernel.trb コンフィギュレータのパス2の生成スクリプト kernel_check.trb コンフィギュレータのパス3の生成スクリプト genoffset.trb オフセットファイル生成用の生成スクリプト allfunc.h すべての関数をコンパイルするための定義 check.h エラーチェック用マクロ startup.c カーネルの初期化と終了処理 task.h タスク管理モジュール関連の定義 task.c タスク管理モジュール task.trb タスク管理モジュールの生成スクリプト taskhook.h タスク管理に関連するフックルーチン関連の定義 taskhook.c タスク管理に関連するフックルーチン wait.h 待ち状態管理モジュール関連の定義 wait.c 待ち状態管理モジュール time_event.h タイムイベント管理モジュール関連の定義 time_event.c タイムイベント管理モジュール task_manage.c タスク管理機能 task_refer.c タスクの状態参照機能 task_sync.c タスク付属同期機能 task_term.c タスク終了機能 semaphore.h セマフォ機能関連の定義 semaphore.c セマフォ機能 semaphore.trb セマフォ機能の生成スクリプト eventflag.h イベントフラグ機能関連の定義 eventflag.c イベントフラグ機能 eventflag.trb イベントフラグ機能の生成スクリプト dataqueue.h データキュー機能関連の定義 dataqueue.c データキュー機能 dataqueue.trb データキュー機能の生成スクリプト pridataq.h 優先度データキュー機能関連の定義 pridataq.c 優先度データキュー機能 pridataq.trb 優先度データキュー機能の生成スクリプト mutex.h ミューテックス機能関連の定義 mutex.c ミューテックス機能 mutex.trb ミューテックス機能の生成スクリプト mempfix.h 固定長メモリプール機能関連の定義 mempfix.c 固定長メモリプール機能 mempfix.trb 固定長メモリプール機能の生成スクリプト time_manage.c システム時刻管理機能 cyclic.h 周期通知機能関連の定義 cyclic.c 周期通知機能 cyclic.trb 周期通知機能の生成スクリプト alarm.h アラーム通知機能関連の定義 alarm.c アラーム通知機能 alarm.trb アラーム通知機能の生成スクリプト sys_manage.c システム状態管理機能 interrupt.h 割込み管理機能関連の定義 interrupt.c 割込み管理機能 interrupt.trb 割込み管理機能の生成スクリプト exception.h CPU例外管理機能関連の定義 exception.c CPU例外管理機能 exception.trb CPU例外管理機能の生成スクリプト tecs_kernel/ kernel.cdl カーネルオブジェクトのコンポーネント 記述ファイル tecs_kernel.h カーネルオブジェクトのコンポーネント 化のためのヘッダファイル init_tecs.c TECSの初期化処理 tKernel_inline.h カーネル操作のインライン関数 tTask.c タスク操作 tTask_inline.h タスク操作のインライン関数 tSemaphore_inline.h セマフォ操作のインライン関数 tEventflag_inline.h イベントフラグ操作のインライン関数 tDataqueue_inline.h データキュー操作のインライン関数 tPriorityDataqueue_inline.h 優先度データキュー操作のインライン関数 tFixedSizeMemoryPool_inline.h 固定長メモリプール操作のインライン関数 tMutex_inline.h ミューテックス操作のインライン関数 tCyclicNotifier.c 周期通知操作 tCyclicNotifier_inline.h 周期通知操作のインライン関数 tAlarmNotifier.c アラーム通知操作 tAlarmNotifier_inline.h アラーム通知操作のインライン関数 tInterruptRequest_inline.h 割込み要求ライン操作のインライン関数 tISR.c 割込みサービスルーチン操作 tInterruptHandler.c 割込みハンドラ操作 tCpuExceptionHandler.c CPU例外管理操作 tInitializeRoutine.c 初期化ルーチン操作 tTerminateRoutine.c 終了処理ルーチン操作 syssvc/ syslog.h システムログ機能を使用するための定義 tSysLog.cdl システムログ機能のコンポーネント記述ファイル tSysLog.c システムログ機能 tSysLogAdapter.cdl システムログ機能のアダプタのコンポーネント記 述ファイル tSysLogAdapter.c システムログ機能のアダプタ serial.h シリアルインタフェースドライバを使用するため の定義 tSerialPort.cdl シリアルインタフェースドライバのコンポーネン ト記述ファイル tSerialPortMain.c シリアルインタフェースドライバの本体 tSerialAdapter.cdl シリアルインタフェースドライバのアダプタのコ ンポーネント記述ファイル tSerialAdapter.c シリアルインタフェースドライバのアダプタ tLogTask.cdl システムログタスクのコンポーネント記述ファイル tLogTaskMain.c システムログタスクの本体 test_svc.h テストプログラム用サービスを使用するための定義 tTestService.cdl テストプログラム用サービスのコンポーネント記 述ファイル tTestService.c テストプログラム用サービス histogram.h 実行時間分布集計サービスを使用するための定義 tHistogram.cdl 実行時間分布集計サービスのコンポーネント記述 ファイル tHistogram.h 実行時間分布集計サービスのヘッダファイル tHistogram.c 実行時間分布集計サービス tHistogramAdapter.cdl 実行時間分布集計サービスのアダプタのコンポー ネント記述ファイル tHistogramAdapter.c 実行時間分布集計サービスのアダプタ tBanner.cdl カーネル起動メッセージ出力のコンポーネント記 述ファイル tBannerMain.c カーネル起動メッセージ出力の本体 library/ log_output.c システムログのフォーマット出力 strerror.c エラーメッセージ文字列を返す関数 t_perror.c エラーメッセージの出力 vasyslog.c 可変数引数のシステムログライブラリ arch/gcc/ tool_stddef.h t_stddef.hの開発環境依存部(GCC用) arch/tracelog/ trace_log.h トレースログに関する設定 tTraceLog.cdl トレースログ機能のコンポーネント記述ファイル tTraceLog.c トレースログ機能 cfg/ MANIFEST 個別パッケージのファイルリスト cfg.rb コンフィギュレータ本体 pass1.rb コンフィギュレータのパス1の処理 pass2.rb コンフィギュレータのパス2の処理 GenFile.rb GenFileクラスの定義 SRecord.rb SRecordクラスの定義 cfg/doc/ cfg_user.txt コンフィギュレータ ユーザーズマニュアル utils/ applyrename.rb ファイルにリネームを適用 genrename.rb リネームヘッダファイルの生成 gentest.rb テストプログラムの生成 makerelease.rb 配布パッケージの生成 sample/ Makefile 標準のMakefile(GNU開発環境用)のテンプレート sample1.h サンプルプログラム(1)に関する定義 sample1.c サンプルプログラム(1) sample1.cfg サンプルプログラム(1)のコンフィギュレーションファイル sample1.cdl サンプルプログラム(1)のコンポーネント記述ファイル tSample2.h サンプルプログラム(2)に関する定義 tSample2.c サンプルプログラム(2) tSample2.cfg サンプルプログラム(2)のコンフィギュレーションファイル tSample2.cdl サンプルプログラム(2)のコンポーネント記述ファイル 5.コンフィギュレーションスクリプトの使い方 コンフィギュレーションスクリプト(configure.rb)は,ASP3カーネルおよび アプリケーションプログラムを構築するために必要な基本的なコンフィギュレー ションを行うためのプログラムである. ASP3カーネルを用いてアプリケーションを作成する場合には,まずオブジェク トファイルを置くディレクトリを作成し,そのディレクトリでコンフィギュレー ションスクリプトを実行する.オブジェクトファイルを置くディレクトリの場 所と名称は,任意に決めてよい. コンフィギュレーションスクリプトに対するオプションは次の通り. -T <ターゲット略称> ターゲットシステムの名称を,targetディレクトリの下に置かれてい るターゲット依存部ディレクトリの名称で指定する(必須). -a <アプリケーションのディレクトリ名> アプリケーションプログラムのソースファイルを置いたディレクトリ 名を指定する.省略した場合には,sampleディレクトリ(ASP3カーネ ルのソースファイルを置いたディレクトリの下の"sample")となる. このオプションを複数記述するか,""で囲むことによって,複数のディ レクトリを指定することも可能である. -A <アプリケーションプログラム名> アプリケーションプログラムの名称を指定する.省略した場合には, サンプルプログラム(sample1)となる. -t アプリケーションプログラムのメインのオブジェクトファイル(アプ リケーションプログラム名に".o"を付加したもの)をリンク対象に含 めない.アプリケーションプログラム全体をTECSを用いて開発する場 合に使用する. -c <システムコンフィギュレーションファイル名> システムコンフィギュレーションファイル(.cfg)の名称を指定する. 省略した場合には,アプリケーションプログラム名に".cfg"を付加し た名称とする. -C <コンポーネント記述ファイル名> コンポーネント記述ファイル(.cdl)の名称を指定する.省略した場 合には,アプリケーションプログラム名に".cdl"を付加した名称とす る. -U <オブジェクトファイル名> アプリケーションプログラムのメインのオブジェクトファイル(アプ リケーションプログラム名に".o"を付加したもの)以外に,リンクす べきオブジェクトファイルの名称を,".o"を付加した形で指定する. このオプションを複数記述するか,""で囲むことによって,複数のファ イルを指定することも可能である. -S <オブジェクトファイル名> システムサービスのオブジェクトファイルの名称を,".o"を付加した 形で指定する.このオプションを複数記述するか,""で囲むことによっ て,複数のファイルを指定することも可能である. -L <カーネルライブラリのディレクトリ名> 事前に構築したカーネルライブラリ(libkernel.a)を用いて,アプリ ケーションのみを構築する場合には,このオプションにカーネルライ ブラリの置かれたディレクトリ名を指定する.このオプションの使用 例については,「3.5 アプリケーションとカーネルを別々に構築する 方法」の節を参照すること. -f カーネルを関数単位でコンパイルしライブラリ化する場合に,このオ プションを指定する.このオプションの使用例については,「3.4 カー ネルを関数単位でライブラリ化する方法」の節を参照すること. -D ASP3カーネルのソースファイルを置いたディレクトリ名を指定する. 省略した場合には,configure.rbの置かれているディレクトリとなる. -l <プログラミング言語> アプリケーションプログラムの記述に用いるプログラミング言語を指 定する.現時点では,cとc++のみをサポートしている. -m <テンプレートMakefile名> Makefileのテンプレートとするファイル名を指定する.省略した場合 には,sampleディレクトリのMakefileとなる. -d <依存環境ファイルのディレクトリ名> 依存関係ファイルを置くディレクトリ名を指定する.省略した場合に は,"deps"となる. -w TECSを使用しない場合に,このオプションを指定する. -r トレースログ記録のサンプルコードを有効にする場合に,このオプショ ンを指定する.このオプションの使用例については,「11.6 トレース ログ記録のサンプルコードの使用方法」の節を参照すること. -V <開発ツールのディレクトリ名> 開発ツールが置かれているディレクトリを指定する.開発ツール(コ ンパイラ等)を絶対パスで指定する場合に用いる. -R rubyのパス名を指定する.省略した場合には,単に"ruby"となる. -g <コンフィギュレータのパス名> コンフィギュレータ(cfg)のパス名を指定する.省略した場合には, "ruby $(SRCDIR)/cfg/cfg.rb"となる. -G TECSジェネレータ(tecsgen)のパス名を指定する.省略した場合に は,"ruby $(SRCDIR)/tecsgen/tecsgen.rb"となる. -o <オプション文字列> コンパイラに与えるオプション文字列で,シンボル定義以外のもの. シンボル定義のオプションは,-Oオプションで指定する.オプション 文字列にスペースが含まれる場合には,このオプションを複数記述す るか,"-O2 -Wall"のように,""で囲んで記述する必要がある. -O <オプション文字列> コンパイラに与えるシンボル定義のためのオプション文字列.オプショ ン文字列にスペースが含まれる場合には,このオプションを複数記述 するか,"-DTEST -DPERF"のように,""で囲んで記述する必要がある. -k <オプション文字列> リンカに与えるオプション文字列.オプション文字列にスペースが含 まれる場合には,このオプションを複数記述するか,""で囲んで記述 する必要がある. また,コンフィギュレーションスクリプトに対するパラメータにより,追加の 定義を行うことができる.例えば,マルチプロセッサ対応カーネルでプロセッ サ数を指定する場合には,「PRC_NUM=<プロセッサ数>」をパラメータに指定す る. コンフィギュレーションスクリプトが行う処理は次の通りである. (1) ターゲット依存部ディレクトリのチェック ターゲット依存部ディレクトリ(-Tオプションで指定)があるかチェックし, ない場合にはエラーとする. (2) Makefileの生成 Makefileのテンプレート(デフォルトでは,sampleディレクトリにある Makefile)を元に,必要な箇所を書き換えて,Makefileを生成する. (3) 依存関係ファイルのディレクトリの作成 依存関係ファイルのディレクトリ(デフォルトでは,"deps")を作成する. 6.標準のMakefileの修正方法 前の章で説明したように,コンフィギュレーションスクリプトに与えるオプショ ン等からMakefileが生成されるが,コンフィギュレーションスクリプトで対応 できない場合には,Makefileを直接修正する必要がある.ここでは,Makefile の中で,修正が必要となる可能性の高い箇所について説明する. なお,Makefileを修正した後にコンフィギュレーションスクリプトを再実行す ると,修正したMakefileが上書きされてしまうので注意すること(古いものが Makefile.bakに保存される). 6.1 Makefileの変数定義 (A) オブジェクトファイルの拡張子 ロードモジュールのファイル名に拡張子が付加される場合には,OBJEXTに拡張 子を定義する必要がある.コンフィギュレーションスクリプトは,Cygwin環境 であると判定した場合に,OBJEXTを"exe"に定義する. (B) ロードモジュールのファイル名 標準のロードモジュールのファイル名をOBJNAMEに定義する.デフォルトはasp である. (C) 共通コンパイルオプション すべてのプログラムに共通するコンパイルオプションの追加が必要な場合には, 下の変数の定義を変更する.そのコンパイルオプションが,特定のターゲット で常に必要な場合には,ターゲット依存の定義を入れたMakefile.target等を修 正すべきである. CDEFS コンパイラに対する-Dオプションを記述する. INCLUDES コンパイラに対する-Iオプションを記述する. COPTS コンパイラに対するその他のオプションを記述する. LDFLAGS リンカに対するオプションを記述する. LIBS ライブラリリンクのためのオプションを記述する. この内,CDEFS,COPTS,LDFLAGSは,それぞれ,コンフィギュレーションスクリ プトの-Oオプション,-oオプション,-kオプションで追加設定することができ る. 追加の可能性のあるコンパイルオプションについては,「6.2 コンパイルオプ ション」の節を参照のこと. (D) アプリケーションのオブジェクトファイル名 アプリケーションを構成するオブジェクトファイル名を,記述言語に応じて, APPL_ASMOBJS,APPL_COBJS,APPL_CXXOBJSに列挙する.この内,APPL_COBJSか APPL_CXXOBJSは,コンフィギュレーションスクリプトの-Aオプションで設定し, -Uオプションで追加設定することができる. (E) アプリケーションのコンパイルオプション アプリケーションのコンパイルに必要なコンパイルオプションがある場合には, APPL_CFLAGSに定義する.なお,APPL_CFLAGSに定義したオプションは,コンフィ ギュレータが生成したファイルをコンパイルする場合には適用されないため, 注意すること. (F) システムサービスのディレクトリ システムサービスのソースファイルを置いたディレクトリを,SYSSVC_DIRSに定 義する. (G) システムサービスのオブジェクトファイル名 システムサービスを構成するオブジェクトファイル名を,記述言語に応じて, SYSSVC_ASMOBJSとSYSSV_COBJSに列挙する.この内,SYSSVC_COBJは,コンフィ ギュレーションスクリプトの-Sオプションで追加設定することができる. (H) システムサービスのコンパイルオプション システムサービスのコンパイルに必要なコンパイルオプションがある場合には, SYSSVC_CFLAGSに定義する.なお,SYSSVC_CFLAGSに定義したオプションは,コ ンフィギュレータが生成したファイルをコンパイルする場合には適用されない ため,注意すること. (I) ターゲットファイルの定義 make allにより,ELF形式以外のロードモジュールを作りたい場合には,作りた いロードモジュールの形式を,allに対する$(MAKE)コマンドのパラメータまた は依存関係に追加指定する.具体的には,バイナリ形式の時は$(OBJNAME).bin, モトローラ S形式の時は$(OBJNAME).srecを追加指定する.なお,$(OBJFILE)は, OBJEXTを定義した場合には$(OBJNAME).$(OBJEXT),そうでない場合には $(OBJNAME)となる. 6.2 コンパイルオプション ASP3カーネルのコード中には,assertマクロが使われている.assertマクロは, NDEBUGを定義することで,オブジェクトコード中から消すことができる.カー ネルのデバッグが終了すれば,-DNDEBUGを指定してコンパイルした方が効率が よくなる. ASP3カーネルは,標準Cライブラリを使用せずに記述してあるが,アプリケーショ ンで標準Cライブラリを使用する場合には,カーネルも標準Cライブラリを使っ た方が効率が良い場合がある.カーネルが標準Cライブラリを使ってよい場合に は,コンパイルオプションに-DTOPPERS_USE_STDLIBを指定する(効果があるか どうかはターゲット依存). ターゲット依存部において,コンパイルオプションに-Werror(警告をエラー扱 いする)を指定している場合がある.そのようなターゲットにおいて,アプリ ケーションで警告が避けられない場合には,ターゲット依存部を修正してコン パイルオプションを削除する必要がある. TOPPERS_OMIT_SYSLOGを定義してコンパイルすることで,システムログ出力を抑 止することができる. 7.コンフィギュレータの使い方 コンフィギュレータ(cfg)による処理は,「TOPPERS第3世代カーネル(ITRON 系)統合仕様書」の「2.12.5 コンフィギュレータの処理モデル」の節の記述の 通り,3つのパスで構成される. コンフィギュレータの使い方について,標準のMakefileを使用している場合に はほとんど知る必要がない.この章では,標準のMakefileを修正する場合や独 自のMakefileを用いる場合のために,ASP3カーネルを使用する上で必要となる コンフィギュレータの使い方について説明する. なお,コンフィギュレータの使用方法に関する詳細は,「TOPPERS第3世代カー ネル向け Ruby版コンフィギュレータ ユーザーズマニュアル」を参照すること. 7.1 コンフィギュレータの起動 コンフィギュレータは,システムコンフィギュレーションファイル名(パス1で のみ有効)をパラメータに取り,以下のオプションを持つ(主なもの). -k[--kernel]<カーネル名> カーネルの名称を指定する.ASP3カーネルでは,aspを指定する. -p[--pass]<パス番号> パス番号を指定する.1〜3のいずれか. -I[--include-directory]<インクルードディレクトリ名> INCLUDEディレクティブによりインクルードするコンフィギュレーショ ンファイルを探すディレクトリ名を指定する.生成スクリプト(trbファ イル)を探す場合にも用いる. -T[--trb-file]<生成スクリプト名> 生成スクリプト(trbファイル)の名称を指定する.パス2とパス3で有 効. --api-table <静的APIテーブルファイル名> 静的APIテーブルのファイル名を指定する.パス1でのみ有効. --symval-table <値取得シンボルテーブルファイル名> 値取得シンボルテーブルのファイル名を指定する.パス1でのみ有効. -r[--rom-image]<ロードモジュールのSレコードファイル名> ロードモジュールをSレコードフォーマットの形に変換したファイルの 名称を指定する.パス2とパス3で有効. -s [--rom-symbol] <ロードモジュールのシンボルファイル名> ロードモジュール中の各シンボルとアドレスの対応表を含むシンボル ファイルの名称を指定する.パス2とパス3で有効. --id-output-file オブジェクトのID番号の割付け結果を,指定した名前のファイルに書 き出す.パス2でのみ有効. --id-input-file オブジェクトのID番号の割付けを,指定した名前のファイルから取り 込む.パス2でのみ有効. -M[--print-dependencies]<依存関係ファイル名> システムコンフィギュレーションファイルの依存関係を出力する.パ ス1でのみ有効.GCCの-Mオプションと異なり,-Mオプションを付けた 場合も,コンフィギュレータは通常の処理を行う(依存関係を出力す るだけという使い方はできない).依存関係ファイル名を指定しない 場合,標準出力に出力する. -O [--omit-output-db] 次のパスに情報を引き渡すためのデータファイルを作成しない. 7.2 タイマドライバの組込み カーネルが内部的に使用する割込みハンドラ(高分解能タイマドライバの割込 みハンドラなど)を登録するために,コンフィギュレータのパス1に,カーネル 実装のコンフィギュレーションファイル(target_kernel.cfg)を読み込ませる 必要がある. 8.システムサービス ASP3カーネルの配布パッケージには,以下のシステムサービスが含まれている. ・システムログ機能 ・シリアルインタフェースドライバ - ターゲット非依存部 - ターゲット依存部 ・システムログタスク ・低レベル出力(ターゲット依存部のみ) ・テストプログラム用サービス ・実行時間分布集計サービス ・カーネル起動メッセージ出力 これらのシステムサービスは,TOPPERS組込みコンポーネントシステム(TECS) を用いて実装している. 参考のために,システムログ機能,シリアルインタフェースドライバ(ターゲッ ト非依存部およびターゲット依存部),システムログタスク,低レベル出力の 間の結合関係を下の図に示す. +----------------------+ +------------------------+ | TECSアプリケーション | | 非TECSアプリケーション | +----------------------+ +------------------------+ |cSysLog |cSerialPort . | | . アプリケーション - - - | - - - - - | - - - - - - - - - - - - . - - - - - - - - - - - - - | +----------------------+ . システムサービス | . . . . . . . . .|. . . . . . | . | . | +----------------+ | +----------------+ | cSysLog| tSysLogAdapter | | | tSysLogAdapter | +--------| SysLogAdapter | | | SysLogAdapter | | +----------------+ | +----------------+ | | |cSerialPort | +----------+ cSerialPort | | | | |--------------+----------+ | cSysLog| tLogTask | | +--------| LogTask |-------------------+ | | | |cnSerialPortManage | | | +----------+ | | | |cPutLog | | | | | | |eSysLog | enSerialPortManage| |eSerialPort +----v----+ | +---v-----v---+ | tSysLog | | | tSerialPort | | SysLog | | | SerialPort1 | +---------+ | +---------^---+ |cPutLog | cSIOPort| |eiSIOCBR | | | | +-------+-------+ | | ターゲット非依存部 - - - - - - -|- - - - - - - - - - - - - - - - | - - | - - - - - - - - - | | | ターゲット依存部 | | | |ePutLog eSIOPort| |ciSIOCBR +---------v--------+ +-----------v----------------+ | 低レベル出力 | | シリアルインタフェース | | PutLogTarget | | ドライバのターゲット依存部 | +------------------+ | SIOPortTarget1 | +----------------------------+ 以下では,これらのシステムサービスを,C言語で記述されたアプリケーション から使用する方法について説明する.ただし,テストプログラム用サービスに ついては,「10.1 テストプログラム用サービス」の節で述べる. また,ターゲット依存の低レベル出力は,アプリケーションから直接呼び出す ことを想定していないため,このマニュアルでは説明しない.低レベル出力は, コンポーネント記述ファイルで,ターゲット依存部のtarget.cdlをインポート することで,システムに組み込むことができる. 8.1 システムログ機能 システムログ機能は,システム内で発生した異常事象等を,ログ情報として記 録するための機能である.また,記録したログ情報を取り出す機能も持つ. システムログ出力を行うソースファイルでは,t_syslog.hをインクルードする. また,システムログ機能のその他のサービスコールを呼び出すソースファイル では,syslog.hをインクルードする. 8.1.1 システムログ機能の位置付け システムログ機能は,カーネル内からも呼び出すことができるため,カーネル より下の階層のモジュールと位置付けることができる.この意味では,他のシ ステムサービスとは位置付けが異なる. 一方,ログ情報をシステム外部に出力するためには,シリアルインタフェース ドライバなど,カーネル上で動作するシステムサービスを用いる必要がある. そこで,ログ情報をシステム外部に出力するためのサービス(これを,システ ムログタスクと呼ぶ)は,システムログ機能とは分離して実装することとし, システムログ機能はログ情報の記録・取出しのための機能に絞っている. 以上のように,システムログ機能はカーネルより下の階層のモジュールである が,システムログ機能の中でログ時刻を取り出すために,標準(ターゲット依 存部で変更しない場合)では,カーネルの機能を用いている.そのため,カー ネルの実行開始前や終了後は,ログ時刻は正しく記録されない. 8.1.2 ログバッファへの記録と低レベル出力 上述したように,ログ情報をシステムの外部に出力するためには,カーネル上 で動作するシステムサービスを用いる必要があるため,カーネルの動作を継続 できないような重大な異常事象が起こった場合には,ログ情報を出力できなく なる.また,これらのシステムサービス自身をデバッグする場合にも,ログ情 報の出力ができない. そこで,カーネル上で動作するシステムサービスが使えない場合にでもログ情 報を出力するために,低レベル出力機能を用意する.低レベル出力機能は,ター ゲット依存に用意する低レベルの文字出力関数を用いてログ情報を出力する機 能である.最終製品に組み込む場合などで,文字を出力する方法がない場合の 対応方法については,「11.3 システムログ機能の扱い」の節を参照すること. ログ情報を,ログバッファへ記録するか低レベル出力機能を用いて出力するか は,システムログ機能のセルの組上げ記述で設定し,システムログ機能のサー ビスコール(syslog_msk_log)でシステム動作中に変更することができる.こ れらの方法については後述する. 低レベル出力機能を用いると,ログメッセージの作成処理(printf相当の処理) と低レベルの文字出力処理を全割込み禁止状態で行うために,割込み応答性が 悪くなることに注意しなければならない.特に,低レベルの文字出力処理はデ バイスをポーリングする形で実装するのが通常で,その場合には,割込み応答 性は実用的と言えない程に悪くなる. 8.1.3 ログ情報の種別 システムログ機能は,ログ情報に以下の種別を設けている. LOG_TYPE_COMMENT コメント LOG_TYPE_ASSERT アサーションの失敗 LOG_TYPE_INH 割込みハンドラ LOG_TYPE_ISR 割込みサービスルーチン LOG_TYPE_CYC 周期ハンドラ LOG_TYPE_ALM アラームハンドラ LOG_TYPE_OVR オーバランハンドラ LOG_TYPE_EXC CPU例外ハンドラ LOG_TYPE_TSKSTAT タスク状態変化 LOG_TYPE_DSP ディスパッチャ LOG_TYPE_SVC サービスコール ログ情報の種別の中で,LOG_TYPE_COMMENTとLOG_TYPE_ASSERT以外は,カーネル のトレースログに用いるためのもので,システムログ機能では用いていない. 8.1.4 ログ情報の重要度 システムログ機能は,ログ情報を出力する際に指定する重要度に基づいて,実 際に出力するログ情報を動的に設定することができる.これは,UNIXのシステ ムログ機能をまねたもので,ログの重要度の種類や指定方法もUNIXのAPIを参考 にしている.また,低レベル出力機能を用いて出力するログ情報も,重要度に 基づいて動的に設定することができる. 具体的には,ログの重要度として次の8段階を用意している. LOG_EMERG カーネルの動作を継続できないエラー LOG_ALERT LOG_CRIT LOG_ERROR 重要性の低いシステムエラー LOG_WARNING 警告メッセージ.システムは安全に継続動作できる LOG_NOTICE LOG_INFO LOG_DEBUG デバッグのためのメッセージ どの重要度のログ情報をログバッファに記録するかと,どの重要度のログ情報 を低レベル出力機能を用いて出力するかは,システムログ機能のセルの組上げ 記述で設定し,システムログ機能のサービスコール(syslog_msk_log)でシス テム動作中に変更することができる. 8.1.5 ログ情報のデータ構造 ログ情報を格納するためのデータ型として,SYSLOG構造体を用意している. SYSLOG構造体には,ログ情報の種別(logtypeフィールド),ログ時刻 (logtimフィールド)と6つのログパラメータ(logparフィールド)が含まれる. ログ時刻のデータ型(LOGTIM)とログパラメータのデータ型(LOGPAR)は,標 準ではそれぞれHRTCNT(高分解能タイマのカウント値のデータ型)とintptr_t に定義されているが,ターゲット依存部(target_stddef.hまたはそこからイン クルードされるファイル)により変更することができる. SYSLOG構造体に格納されたログ情報を出力する場合,ログ時刻(logtimフィー ルド)は出力関数(syslog_wri_log)によって書き込まれるため,出力関数を 呼ぶ側で書き込む必要はない. 8.1.6 システムログ機能のサービスコール システムログ機能の提供するサービスコールは次の通りである.これらのサー ビスコールを呼び出すソースファイルでは,syslog.hをインクルードする. (1) ER syslog_wri_log(uint_t prio, const SYSLOG *p_syslog) システムログ機能に,p_syslogで指定されるログ情報を,prioで指定される重 要度で出力する(ログバッファへ記録するか低レベル出力機能を用いて出力す る). プロトタイプ宣言において,*p_syslogにconst指定がされているが,実際には, この関数の中で,*p_syslogのlogtimフィールドにシステム時刻を書き込んでい る. (2) ER_UINT syslog_rea_log(SYSLOG *p_syslog) ログバッファからログ情報を1つ取り出す.ログバッファが空の時はE_OBJ,そ うでない場合は,ログバッファのオーバフローにより失われたログ情報の数 (ログ情報が失われていない場合は0)を返す.システムログタスクが用いるこ とを想定している. (3) ER syslog_msk_log(uint_t logmask, uint_t lowmask) ログバッファに記録すべきログ情報の重要度の示すビットマップ(logmask)と, 低レベル出力機能を用いて出力すべきログ情報の重要度を示すビットマップ (lowmask)を設定する.ビットマップを作るためのマクロとして,LOG_MASKと LOG_UPTOを用意している. (4) ER syslog_ref_log(T_SYSLOG_RLOG *pk_rlog) システムログ機能の状態を参照する.具体的には,ログバッファに記録されて いるログ情報の数(T_SYSLOG_RLOG構造体のcountフィールド),ログバッファ のオーバフローにより失われたログ情報の数(lostフィールド),ログバッファ に記録すべきログ情報の重要度の示すビットマップ(logmaskフィールド),低 レベル出力機能を用いて出力すべきログ情報の重要度を示すビットマップ (lowmaskフィールド)を参照することができる. (5) ER syslog_fls_log(void) ログバッファに記録されているログ情報をすべて取り出し,低レベル出力機能 を用いて出力する. 8.1.7 システムログ機能のためのライブラリ関数とマクロ システムログ出力のためのライブラリ関数とマクロは次の通りである.これら だけを呼び出すソースファイルでは,t_syslog.hをインクルードすればよい. (1) void _syslog_n(uint_t prio, uint_t type, LOGPAR arg1, ..., LOGPAR argn) ※ nは0〜6のいずれか. ログ種別がtype,ログパラメータがarg1〜argnのログ情報を,重要度prioで出 力するための関数. (2) void syslog_n(uint_t prio, const char *format, arg1, ..., argn) ※ nは0〜5のいずれか. format文字列およびそれに続く引数から作成されるメッセージを,ログ種別が LOG_TYPE_COMMENTのログ情報として,重要度prioで出力するためのマクロ. formatはメッセージのフォーマット記述(printfのフォーマット記述と類似), arg1〜argnはフォーマット記述中で参照される値である.arg1〜argnは,この マクロ中でLOGPAR型にキャストされるため,LOGPAR型に型変換できる任意の型 を渡すことができ,型チェックはされない.formatおよびarg1〜argnには,次 の制限がある. ・formatのフォーマット記述は,定数文字列を渡すことを想定しており,この マクロ処理を終えた後も変化してはならない. ・format中に使えるフォーマット指定は次の通り. %d 引数をint_t型とみなし,10進数で表示 %u 引数をuint_t型とみなし,10進数で表示 %x 引数をuint_t型とみなし,16進数(英文字は小文字)で表示 %X 引数をuint_t型とみなし,16進数(英文字は大文字)で表示 %p 引数をポインタとみなし,16進数(英文字は小文字)で表示 %c 引数を文字コードとみなし,文字を表示 %s 引数を文字列を示すポインタとみなし,文字列を表示 %% '%'を表示(引数は取らない) %d, %u, %x, %Xにおいては,'%'の直後に表示桁数を指定する10進数値を記述す ることができる.その場合,表示すべき文字列が指定した桁数に満たない場合 には,指定した桁数内に右詰めで表示する.10進数値が'0'で始まる場合には, その間に'0'を埋める. また,サイズ指定を付与した次のフォーマット指定も使うことができる. %ld 引数をlong_t型とみなし,10進数で表示 %lu 引数をulong_t型とみなし,10進数で表示 %lx 引数をulong_t型とみなし,16進数(英文字は小文字)で表示 %lX 引数をulong_t型とみなし,16進数(英文字は大文字)で表示 %td 引数をint32_t型とみなし,10進数で表示 %tu 引数をuint32_t型とみなし,10進数で表示 %tx 引数をuint32_t型とみなし,16進数(英文字は小文字)で表示 %tX 引数をuint32_t型とみなし,16進数(英文字は大文字)で表示 %Tu 引数をSYSTIM型とみなし,10進数で表示 %Tx 引数をSYSTIM型とみなし,16進数(英文字は小文字)で表示 %TX 引数をSYSTIM型とみなし,16進数(英文字は大文字)で表示 ただし,引数をログ情報に出力する際には,LOGPAR型にキャストされる.その ため,LOGPAR型(標準ではintptr_tに定義)より大きいサイズのデータは,正 しく表示されない.正しく表示したい場合には,ターゲット依存部でLOGPAR型 の定義を変更すれば良い. %tu,%tx,%tXは,RELTIM型やTMO型の変数を表示するために使うことを想定し た機能である. ・arg1〜argnにポインタを渡す場合(%sに対応する引数の場合),ポインタの の指すデータは,このマクロ処理を終えた後も変化してはならない.定数文字 列を渡すことを想定している. (3) void syslog(uint_t prio, const char *format, ...) format文字列およびそれに続く引数から作成されるメッセージを,ログ種別が LOG_TYPE_COMMENTのログ情報として,重要度prioで出力するための関数で,引 数の数を可変にしたもの.formatに続く引数は最大5個まで.formatおよびそれ に続く引数には,syslog_nと同様の制限がある. このライブラリ関数は,可変数引数を処理するために内部で文字列をスキャン する.そのため,実行時間が長くなる可能性があり,割込み禁止状態で呼び出 すべきではない.主にアプリケーションプログラムが用いることを想定してい る. (4) UINT LOG_MASK(UINT prio) 重要度prioのみセットされたビットマップを作るマクロ.syslog_msk_logに渡 す引数を作るために用いる. (5) UINT LOG_UPTO(UINT prio) 重要度prio以上の重要度がすべてセットされたビットマップを作るマクロ. syslog_msk_logに渡す引数を作るために用いる. 8.1.8 システムログ機能の組込みと取外し システムログ機能は,システムログ機能の本体と,システムログ機能をC言語で 記述されたアプリケーションから呼び出すためのアダプタで構成される. システムログ機能の本体は,コンポーネント記述ファイルでtSysLog.cdlをイン ポートし,以下のようなセルの組上げ記述を含めることで,システムに組み込 むことができる(sample1.cdlには,この記述が含まれている). ---------------------------------------- cell tSysLog SysLog { logBufferSize = 32; /* ログバッファのサイズ */ initLogMask = C_EXP("LOG_UPTO(LOG_NOTICE)"); /* ログバッファに記録すべき重要度 */ initLowMask = C_EXP("LOG_UPTO(LOG_EMERG)"); /* 低レベル出力すべき重要度 */ /* 低レベル出力との結合 */ cPutLog = PutLogTarget.ePutLog; }; ---------------------------------------- この記述を変更することで,システムログ機能のログバッファのサイズ,ログ バッファに記録すべき重要度の初期値,低レベル出力すべき重要度の初期値を 変更することができる. システムログ機能のアダプタは,コンポーネント記述ファイルで tSysLogAdapter.cdlをインポートし,以下のセルの組上げ記述を含めることで, システムに組み込むことができる(sample1.cdlには,この記述が含まれてい る). ---------------------------------------- cell tSysLogAdapter SysLogAdapter { cSysLog = SysLog.eSysLog; }; ---------------------------------------- システムログ機能を取り外す場合には,上の2つのセルの組上げ記述を削除し, コンパイルオプションに-DTOPPERS_OMIT_SYSLOGを追加すればよい.ただし,シ ステムログタスクはシステムログ機能を使用するため,それも外すことが必要 である. 8.2 シリアルインタフェースドライバ シリアルインタフェースドライバは,シリアルポートを扱うためのドライバで ある. 8.2.1 シリアルインタフェースドライバのサービスコール シリアルインタフェースドライバを呼び出すサービスコールの仕様は次の通り である.この中で,シリアルポートのID番号(portid)の解釈はターゲット依 存となる.これらのサービスコールを呼び出すソースファイルでは,serial.h をインクルードする. シリアルインタフェースドライバのサービスコールは,非タスクコンテキスト から呼び出すことはできない.また,serial_rea_datとserial_wri_datは,ディ スパッチ保留状態で呼び出すことはできない.いずれも,呼び出した場合には E_CTXエラーとなる. (1) ER serial_opn_por(ID portid) portidで指定されたシリアルポートをオープンし,受信/送信が可能な状態に する. (2) ER serial_cls_por(ID portid) portidで指定されたシリアルポートをクローズする. (3) ER_UINT serial_rea_dat(ID portid, char *buf, uint_t len) portidで指定されたシリアルポートから,lenバイトの文字列を受信し,bufか らの領域に入れる.lenバイト受信するまで,待ち状態となる.受信した文字数 またはエラーコードを返す. (4) ER_UINT serial_wri_dat(ID portid, const char *buf, uint_t len) portidで指定されたシリアルポートに,bufからのlenバイトの文字列を送信す る.lenバイト送信バッファに入れるまで,待ち状態となる.送信した文字数ま たはエラーコードを返す. (5) ER serial_ctl_por(ID portid, uint_t ioctl) portidで指定されたシリアルポートの制御情報を,ioctlで示される値に設定す る. ioctlには,以下の制御情報を表す定数を,ビット毎に論理和をとったものを 指定する. IOCTL_ECHO(エコーバックモード) このビットを設定すると,シリアルインタフェースドライバがエコー バックを行う.具体的には,バッファから文字を取り出す度に,その 文字を書き出す. IOCTL_CRLF(改行モード) LF(line feed)を書き出すと,CR(carriage return)+LFに変換し て書き出す. IOCTL_FCSND(送信フロー制御) 文字を送信する処理に対して,XON/XOFFによるフロー制御を行う. すなわち,STOP(コントロール-S)を受信すると送信を停止し, START(コントロール-Q)を受信すると送信を再開する. IOCTL_FCANY(送信フロー制御で任意の文字で送信再開) IOCTL_FCSNDを指定している時に,送信停止中に受信した任意の文字 で送信を再開する. IOCTL_FCRCV(受信フロー制御) 文字を受信する処理に対して,XON/XOFFによるフロー制御を行う. すなわち,受信バッファの残り領域が少なくなるとSTOP(コントロー ル-S)を送出し,残り領域が増えればSTART(コントロール-Q)を送 出する. なお,オープン直後のデフォルトの設定値は(IOCTL_ECHO | IOCTL_CRLF | IOCTL_FCSND | IOCTL_FCRCV)である. (6) ER serial_ref_por(ID portid, T_SERIAL_RPOR *pk_rpor) portidで指定されたシリアルポートの状態を参照し,pk_rporで指定されるパケッ トに返す.パケット中のreacntには受信バッファ中の文字数を,wricntには送 信バッファ中の文字数を返す. 8.2.2 シリアルインタフェースドライバのその他のサービス シリアルインタフェースドライバは,前節のサービスコールに加えて,システ ムの終了時に未送信の文字を取り出すための機能(終了処理ルーチンから呼び 出すことを想定)を持つが,C言語で記述されたアプリケーションから呼び出す ことは想定していない. 8.2.3 シリアルインタフェースドライバの組込みと取外し シリアルインタフェースドライバは,シリアルインタフェースドライバのター ゲット非依存部,シリアルインタフェースドライバのターゲット依存部と,シ リアルインタフェースドライバをC言語で記述されたアプリケーションから呼び 出すためのアダプタで構成される. シリアルインタフェースドライバのターゲット依存部は,コンポーネント記述 ファイルで,ターゲット依存部のtarget.cdlをインポートすることで,システ ムに組み込むことができる. シリアルインタフェースドライバのターゲット非依存部は,コンポーネント記 述ファイルでtSerialPort.cdlをインポートし,以下のようなセルの組上げ記述 を含めることで,システムに組み込むことができる(SIOPortTarget1の組上げ 記述が,ターゲット依存部に含まれていることを想定.シリアルポート毎に, セルの組上げ記述が必要.sample1.cdlには,この記述が含まれている). ---------------------------------------- cell tSerialPort SerialPort1 { receiveBufferSize = 256; /* 受信バッファのサイズ */ sendBufferSize = 256; /* 送信バッファのサイズ */ /* ターゲット依存部との結合 */ cSIOPort = SIOPortTarget1.eSIOPort; eiSIOCBR <= SIOPortTarget1.ciSIOCBR; /* コールバック */ }; ---------------------------------------- この記述を変更することで,シリアルインタフェースドライバの受信バッファ のサイズと送信バッファのサイズを変更することができる(シリアルポート毎 に別々に設定することもできる). シリアルインタフェースドライバのアダプタは,コンポーネント記述ファイル でtSerialAdapter.cdlをインポートし,以下のようなセルの組上げ記述を含め ることで,システムに組み込むことができる(シリアルインタフェースを1ポー トのみサポートする場合.sample1.cdlには,この記述が含まれている). ---------------------------------------- cell tSerialAdapter SerialAdapter { cSerialPort[0] = SerialPort1.eSerialPort; }; ---------------------------------------- シリアルインタフェースドライバを取り外す場合には,上の2つのセルの組上げ 記述を削除すればよい.ただし,システムログタスクはシリアルインタフェー スドライバを使用するため,それも外すことが必要である. 8.3 システムログタスク システムログタスクは,システムログ機能からログ情報を取り出し,それをシ ステムの外部に出力するためのサービスである. ASP3カーネルの配布パッケージに含まれるシステムログタスクは,シリアルイ ンタフェースドライバを用いてログ情報を文字列の形で出力するもので,シス テムログタスクの一例という位置付けで提供している. 8.3.1 システムログタスクの機能 システムログタスクは,実行開始されると,まず,結合されたシリアルインタ フェースドライバのシリアルポートをオープンする. その後,システムログ機能を用いてログバッファからログ情報を取り出し,そ れを文字列に変換して,シリアルポートに出力する.ログバッファが空の場合 には,一定時間(デフォルトでは1ミリ秒。セルの組上げ記述で変更可能)待つ. これらの処理を,カーネルの終了まで繰り返す. カーネルの終了処理では,シリアルインタフェースドライバの送信バッファに 蓄積されたデータと,ログバッファに記録されたログ情報を,低レベル出力機 能を用いて出力する.出力すべきログ情報がある場合には,それを出力する前 に,"-- buffered messages --"という文字列を出力する. これにより,カーネル終了時点で未出力のログ情報のほとんどを出力すること ができる.ただし,カーネル終了時点で,システムログタスクがログバッファ から取り出したが,まだシリアルポートに送っていないログ情報は,出力され ない. 8.3.2 システムログタスクのその他のサービス システムログタスクは,前節の機能に加えて,システムログ機能のログバッファ 中のログ情報が指定した数以下になるまで待つ(指定した数が0の場合には,シ リアルインタフェースドライバの送信バッファが空になるのも待つ)機能を持 つが,C言語で記述されたアプリケーションから呼び出すことは想定していない. 8.3.3 システムログタスクの組込みと取外し システムログタスクは,コンポーネント記述ファイルでtLogTask.cdlをインポー トし,以下のようなセルの組上げ記述を含めることで,システムに組み込むこ とができる(sample1.cdlには,このような記述が含まれている). ---------------------------------------- cell tLogTask LogTask { priority = 3; /* システムログタスクの優先度 */ stackSize = LogTaskStackSize; /* システムログタスクのスタックサイズ */ interval = 10000; /* システムログタスクの動作間隔 */ flushWait = 1000; /* フラッシュ待ちの単位時間 */ /* シリアルインタフェースドライバとの結合 */ cSerialPort = SerialPort1.eSerialPort; cnSerialPortManage = SerialPort1.enSerialPortManage; /* システムログ機能との結合 */ cSysLog = SysLog.eSysLog; /* 低レベル出力との結合 */ cPutLog = PutLogTarget.ePutLog; }; ---------------------------------------- この記述を変更することで,システムログタスクの優先度,スタックサイズ, 動作間隔(ログバッファが空の場合に待つ時間),フラッシュ待ちの単位時間 を変更することができる. システムログタスクを取り外す場合には,上のセルの組上げ記述を削除すれば よい. 8.4 実行時間分布集計サービス 実行時間分布集計サービスは,システムのリアルタイム性能を評価するために, プログラム区間の実行時間を計測し,その分布を集計・表示するためのシステ ムサービスである. 8.4.1 実行時間分布集計サービスの概要 実行時間分布集計サービスは,複数のプログラム区間の実行時間を計測・集計・ 表示することができる.プログラム区間毎に,実行時間分布を記録するための データ構造を持つ.どのデータ構造を用いるかを,ID番号(histid)で指定す る. ターゲット依存部で設定を変更していない場合,実行時間分布集計サービスは, カーネルの高分解能タイマを参照する機能(fch_hrt)を用いて実行時間を計測 する.そのため,実行時間はマイクロ秒単位で記録される(精度はターゲット 依存).また,記録される時間には,計測のためのオーバヘッド(fch_hrtの実 行時間+α)が含まれる. ターゲット依存部で設定を変更している場合の仕様については,ターゲット依 存部のユーザーズマニュアルを参照すること. 8.4.2 実行時間分布集計サービスのサービスコール 実行時間分布集計サービスを呼び出すサービスコールの仕様は次の通りである. これらのサービスコールを呼び出すソースファイルでは,histogram.hをインク ルードする. (1) void init_hist(ID histid) histidで指定されたデータ構造を初期化する. (2) void begin_measure(ID histid) 実行時間を計測するプログラム区間の直前に呼び出す関数.histidで指定され たデータ構造に,現在のシステム時刻を記録する. (3) void end_measure(ID histid) 実行時間を計測するプログラム区間の直後に呼び出す関数.現在のシステム時 刻と,histidで指定されたデータ構造に記録された開始時刻から,プログラム 区間の実行時間を求め,その結果を記録する. (4) void print_hist(ID histid) システムログ機能を用いて,実行時間分布の計測結果を出力する. 8.4.3 実行時間分布集計サービスの組込みと取外し 実行時間分布集計サービスは,実行時間分布集計サービスの本体と,実行時間 分布集計サービスをC言語で記述されたアプリケーションから呼び出すためのア ダプタで構成される. 実行時間分布集計サービスの本体は,コンポーネント記述ファイルで tHistogram.cdlをインポートし,以下のようなセルの組上げ記述を含めること で,システムに組み込むことができる(perf_pf.cdlには,このような記述が含 まれている).セルの組上げ記述は,実行時間分布を記録するためのデータ構 造毎に必要である. ---------------------------------------- cell tHistogram Histogram1 { }; cell tHistogram Histogram2 { maxTime = 2000 }; ---------------------------------------- ここで,maxTimeは,集計できる最大実行時間である.上の例のHistogram1のよ うにmaxTimeの指定を省略した場合,デフォルト値として1000が使われる. 実行時間分布集計サービスのアダプタは,コンポーネント記述ファイルで tHistogramAdapter.cdlをインポートし,以下のようなセルの組上げ記述を含め ることで,システムに組み込むことができる(実行時間分布を記録するための データ構造を2つサポートする場合.perf_pf.cdlには,このような記述が含ま れている). ---------------------------------------- cell tHistogramAdapter HistogramAdapter { cHistogram[0] = Histogram1.eHistogram; cHistogram[1] = Histogram2.eHistogram; }; ---------------------------------------- 8.5 カーネル起動メッセージ出力 カーネル起動メッセージ出力は,カーネルの起動時に,カーネルの名称やバー ジョン番号,著作権表示などを出力するための機能である. カーネル起動メッセージ出力は,コンポーネント記述ファイルでtBanner.cdlを インポートし,以下のようなセルの組上げ記述を含めることで,システムに組 み込むことができる(BannerTargetNameとBannerCopyrightNoticeの定義が,ター ゲット依存部に含まれていることを想定.sample1.cdlには,この記述が含まれ ている). ---------------------------------------- cell tBanner Banner { targetName = BannerTargetName; copyrightNotice = BannerCopyrightNotice; }; ---------------------------------------- 9.サポートライブラリ サポートライブラリは,アプリケーションやシステムサービスを作成するため に利用できるライブラリ関数群である. 9.1 基本的なライブラリ関数 基本的なライブラリ関数を用いる場合には,t_stdlib.hをインクルードし,必 要に応じてstrerror.cとt_perror.cをコンパイル・リンクする. (1) const char *itron_strerror(ER ercd) ercdで示されるエラーコードに対応するメインエラーコードの文字列を返す. (2) void t_perror(uint_t prio, const char *file, int_t line, const char *expr, ER ercd); サービスコールがエラーを返した場合に用いることを想定した関数で,ファイ ル名,行番号,メインエラーコード等を,重要度prioで,システムログ機能を 用いて出力する. 9.2 キュー操作ライブラリ関数 キュー操作ライブラリは,キューヘッダを含むリング構造のダブルリンクキュー を扱うライブラリである.キューヘッダの次エントリはキューの先頭のエント リ,前エントリはキューの末尾のエントリとする.また,キューの先頭のエン トリの前エントリと,キューの末尾のエントリの次エントリは,キューヘッダ とする.空のキューは,次エントリ,前エントリとも自分自身を指すキューヘッ ダであらわす. キュー操作ライブラリ関数を用いる場合には,queue.hをインクルードする. キューヘッダとエントリのためのデータ構造として,QUEUE構造体を用いる. QUEUE構造体の定義は次の通り. typedef struct queue { struct queue *p_next; /* 次エントリへのポインタ */ struct queue *p_prev; /* 前エントリへのポインタ */ } QUEUE; キュー操作のために用意している関数は次の通り. (1) void queue_initialize(QUEUE *p_queue); キューを初期化する.p_queueにはキューヘッダを指定する. (2) void queue_insert_prev(QUEUE *p_queue, QUEUE *p_entry); p_queueで指定するエントリの前に,p_entryで指定するエントリを挿入する. p_queueにキューヘッダを指定した場合には,キューの末尾にp_entryで指定す るエントリを挿入することになる. (3) void queue_insert_next(QUEUE *p_queue, QUEUE *p_entry); p_queueで指定するエントリの次に,p_entryで指定するエントリを挿入する. p_queueにキューヘッダを指定した場合には,キューの先頭にp_entryで指定す るエントリを挿入することになる. (4) void queue_delete(QUEUE *p_entry); p_entryで指定するエントリを,キューから削除する. (5) QUEUE *queue_delete_next(QUEUE *p_queue); p_queueで指定するエントリの次のエントリをキューから削除し,削除したエン トリを返す.p_queueにキューヘッダを指定した場合には,キューの先頭のエン トリを取り出すことになる.p_queueに空のキューを指定して呼び出してはなら ない. (6) bool_t queue_empty(QUEUE *p_queue); キューが空の場合にはtrue,そうでない場合にはfalseを返す.p_queueには キューヘッダを指定する. 9.3 システムログ出力用ライブラリ関数 システムログ出力用ライブラリ関数は,ログ情報をフォーマット出力するため に,システムログタスクおよびシステムログ機能で用いるための関数群である. システムログ出力用ライブラリ関数を用いる場合には,log_output.hをインク ルードし,log_output.cをコンパイル・リンクする. (1) void syslog_printf(const char *format, const intptr_t *p_args, void (*putc)(char)) formatで指定されるフォーマット記述とp_argsで指定される引数列から作成し たメッセージを,1文字出力関数putcを用いて出力する. (2) void syslog_print(const SYSLOG *p_syslog, void (*putc)(char)) p_syslogで指定されるログ情報を文字列に直し,1文字出力関数putcを用いて出 力する. (3) void syslog_lostmsg(uint_t lost, void (*putc)(char)) lost個のログ情報が失われた旨のメッセージを,1文字出力関数putcを用いて出 力する. 10.テストプログラム テストプログラムは,カーネルの機能テストおよび性能評価を行うためのプロ グラム群である. 10.1 テストプログラム用サービス テストプログラム用サービスは,プログラム中のチェックポイントが正しい順 序で実行されたことなど,プログラムが正しく動作していることをチェックす るためのシステムサービスである.プログラムが正しく動作していないことを 検出した場合には,プログラムを終了させる. 10.1.1 テストプログラム用サービスのサービスコール テストプログラム用サービスを呼び出すサービスコールの仕様は次の通りであ る.これらのサービスコールを呼び出すソースファイルでは,test_svc.hをイ ンクルードする. (1) void test_start(const char *progname) テストプログラムの開始時に呼び出す関数.prognameには,テストプログラム 名を渡す. (2) void set_bit_func(const void *bit_func) チェックポイントにおいて呼び出す自己診断関数を設定するための関数.この 関数を呼び出さない場合,チェックポイントで自己診断関数を呼び出さない. (3) void check_point(uint_t count) チェックポイントを通過する際に呼び出す関数.countには,何番目のチェック ポイントであるかを指定する(最初のチェックポイントでは1を指定する). countの値が,最初のチェックポイントにおいては1でない場合に,それ以降の チェックポイントにおいては,前のチェックポイント通過時にcountに指定した 値に1を加えた値でない場合に,プログラムが正しく動作していないと見なし, プログラムを終了させる. (4) void check_finish(uint_t count) 最後のチェックポイントに到達した際に呼び出す関数.countには,何番目の チェックポイントであるかを指定する(最初のチェックポイントでは1を指定す る).countの値が,前のチェックポイント通過時にcountに指定した値に1を加 えた値でない場合に,プログラムが正しく動作していないと見なす.この関数 は,プログラムが正しく動作している/いないに関わらず,プログラムを終了 させる. チェックポイントを使用しないテストプログラムの場合には,countに0を指定 してこの関数を呼び出し,プログラムを終了させる. (5) void check_assert(bool_t exp) expが真であることをチェックしたい場合に呼び出す関数.expが偽である場合 に,プログラムが正しく動作していないと見なし,プログラムを終了させる. (6) void check_ercd(ER ercd, ER expected_ercd) ercdがexpected_ercdに一致していることをチェックしたい場合に呼び出す関数. ercdがexpected_ercdに一致していない場合に,プログラムが正しく動作してい ないと見なし,プログラムを終了させる. (7) void check_state(bool_t ctx, bool_t loc, bool_t dsp, bool_t dpn, bool_t ter) システム状態が期待したものになっているかチェックしたい時に呼び出す関数. ctx,loc,dsp,dpn,terには,それぞれsns_ctx(),sns_loc(),sns_dsp(), sns_dpn(),sns_ter()の返値として期待される値を指定する.この内のいずれ かが期待される値と一致していない場合に,プログラムが正しく動作していな いと見なし,プログラムを終了させる. (8) void check_ipm(PRI ipm) 割込み優先度マスクが期待した値になっているかチェックしたい時に呼び出す 関数.ipmには,get_ipm()で参照できる割込み優先度マスクとして期待される 値を指定する.期待される値と一致していない場合に,プログラムが正しく動 作していないと見なし,プログラムを終了させる. 10.1.2 テストプログラム用サービスの組込みと取外し テストプログラム用サービスは,コンポーネント記述ファイルで tTestService.cdlをインポートし,以下のセルの組上げ記述を含めることで, システムに組み込むことができる(test_pf.cdlとperf_pf.cdlには,この記述 が含まれている). ---------------------------------------- cell tTestService TestService { cSysLog = SysLog.eSysLog; }; ---------------------------------------- テストプログラム用サービスを取り外す場合には,上のセルの組上げ記述を削 除すればよい. 10.2 カーネルの整合性検査 チェックポイントにおいて呼び出す自己診断に使うためのプログラムとして, カーネルの整合性検査を用意している.カーネルの整合性検査は,カーネル内 の各データ構造の一貫性を検査する(現時点では未完成). カーネルの整合性検査を用いる場合には,それぞれ,bit_kernel.c, bit_mutex.cをコンパイル・リンクする. (1) ER bit_kernel(void) カーネル内の各データ構造の一貫性を検査し,一貫性が確認できた場合にE_OK, できなかった場合にE_SYSエラーを返す関数.E_SYSエラーを返す際のサブエラー コードとして,一貫性が確認できなかった項目を示すコードを返す. (2) ER bit_mutex(void) カーネル内のミューテックス関連のデータ構造の一貫性を検査し,一貫性が確 認できた場合にE_OK,できなかった場合にE_SYSエラーを返す関数.E_SYSエラー を返す際のサブエラーコードとして,一貫性が確認できなかった項目を示すコー ドを返す. 10.3 機能テストプログラム testディレクトリに置かれた"test"で始まるプログラムは,カーネルの機能テ ストを行うためのプログラムである. 機能テストプログラムはテストプログラム用サービスを使用しているため,構 築する場合には,コンポーネント記述ファイルにtest_pf.cdlを使用する必要が ある.コンフィギュレーションスクリプトを使用する場合には,-Cオプション でtest_pf.cdlを指定する.具体的には,次のコマンドを実行すればよい(構築 用のディレクトリが,ASP3カーネルのソースファイルを展開したディレクトリ の直下にあると仮定している). % ruby ../configure.rb -T <ターゲット略称> -a ../test \ -A <テストプログラム名> -C test_pf.cdl ただし,CPU例外処理のテスト(1)〜(13)は,同一のシステムコンフィギュレー ションファイル(test_cpuexc.cfg)を共用しているため,-cオプションで test_cpuexc.cfgを指定する必要がある. % ruby ../configure.rb -T <ターゲット略称> -a ../test \ -A <テストプログラム名> -C test_pf.cdl \ -c test_cpuexc.cfg また,いくつかのテストプログラムでは,カーネルの整合性検査を実施してい る.該当するテストプログラムを構築する場合には,システムサービスのオブ ジェクトファイル名に,bit_kernel.oまたはbit_mutex.oを追加する必要がある. コンフィギュレーションスクリプトを使用する場合には,-Sオプションでこれ らのファイルを指定する.具体的には,次のコマンドを実行すればよい. % ruby ../configure.rb -T <ターゲット略称> -a ../test \ -A <テストプログラム名> -C test_pf.cdl \ -S "bit_kernel.o bit_mutex.o" 現バージョンで用意している機能テストプログラムは次の通り. (1) test_cpuexc1 CPU例外処理のテスト(1) (2) test_cpuexc2 CPU例外処理のテスト(2) (3) test_cpuexc3 CPU例外処理のテスト(3) (4) test_cpuexc4 CPU例外処理のテスト(4) (5) test_cpuexc5 CPU例外処理のテスト(5) (6) test_cpuexc6 CPU例外処理のテスト(6) (7) test_cpuexc7 CPU例外処理のテスト(7) (8) test_cpuexc8 CPU例外処理のテスト(8) (9) test_cpuexc9 CPU例外処理のテスト(9) (10) test_cpuexc10 CPU例外処理のテスト(10) (11) test_dlynse sil_dly_nseに関するテスト (12) test_flg1 イベントフラグ機能のテスト(1) (13) test_dtq1 データキュー機能のテスト(1) (14) test_hrt1.c fch_hrtに関するテスト(1) (15) test_mutex1.c ミューテックス機能のテスト(1) (16) test_mutex2.c ミューテックス機能のテスト(2) (17) test_mutex3.c ミューテックス機能のテスト(3) (18) test_mutex4.c ミューテックス機能のテスト(4) (19) test_mutex5.c ミューテックス機能のテスト(5) (20) test_mutex6.c ミューテックス機能のテスト(6) (21) test_mutex7.c ミューテックス機能のテスト(7) (22) test_mutex8.c ミューテックス機能のテスト(8) (23) test_notify1.c 通知処理のテスト(1) (24) test_raster1.c タスク終了要求機能に関するテスト(1) (25) test_raster2.c タスク終了要求機能に関するテスト(2) (26) test_sem1 セマフォ機能のテスト(1) (27) test_sem2 セマフォ機能のテスト(2) (28) test_sysman1 システム状態管理機能のテスト(1) (29) test_sysstat1 システム状態に関するテスト(1) (30) test_task1 タスク管理モジュールのテスト(1) (31) test_tmevt1.c タイムイベント管理モジュールのテスト(1) CPU例外処理のテストプログラムの一部は,CPU例外ハンドラからリターンした 場合に,CPU例外を発生させた命令の次から実行が継続されることを前提に作成 されている.この前提が成り立たない場合には,テストプログラムのターゲッ ト依存定義において,PREPARE_RETURN_CPUEXCの定義で対応することが必要であ る.詳しくは,「ターゲット依存部 ポーティングガイド」を参照すること. 10.4 システム時刻管理機能テストプログラム testディレクトリに置かれた"hrt"で始まるプログラムは,高分解能タイマを用 いて実現したシステム時刻管理機能に関するテストを行うためのプログラムで ある. システム時刻管理機能テストプログラムは,テストデータに駆動されて動作す るテスト用の高分解能タイマモジュールを必要とする.そのため,テスト用の 高分解能タイマモジュールを組み込んだターゲット依存部を用いてテストを行 わなければならない. テスト用の高分解能タイマモジュールを用いたカーネルをコンパイルする際に は,高分解能タイマモジュールの性質を切り換えるためのマクロ定義が必要で ある.具体的には,-DHRT_CONFIG1または-DHRT_CONFIG2のいずれかのコンパイ ルオプションをつける必要がある.どちらのコンパイルオプションを付けるべ きかは,テストプログラム毎に決まっている. また,システム時刻管理機能テストプログラムは,機能テストプログラムと同 様に,テストプログラム用サービスを使用している. 以上より,システム時刻管理機能テストプログラムをコンフィギュレーション スクリプトを使用して構築する場合には,次のコマンドを実行すればよい(構 築用のディレクトリが,ASP3カーネルのソースファイルを展開したディレクト リの直下にあると仮定している). % ruby ../configure.rb -T <テスト用のターゲット略称> -a ../test \ -A <テストプログラム名> -C test_pf.cdl \ -O -DHRT_CONFIG<1または2> 現バージョンで用意しているシステム時刻管理機能テストプログラムは次の通 り. (1) hrt_systim1 システム時刻管理機能のテスト(1) (2) hrt_systim2 システム時刻管理機能のテスト(2) (3) hrt_systim3 システム時刻管理機能のテスト(3) (4) hrt_systim4 システム時刻管理機能のテスト(4) この内,hrt_systim4は-DHRT_CONFIG2をつけて,他は-DHRT_CONFIG1をつけてコ ンパイルすること. 10.5 性能評価プログラム testディレクトリに置かれた"perf"で始まるプログラムは,カーネルの性能評 価を行うためのプログラムである. 性能評価プログラムは,計測対象となる処理を繰り返し実行し,その実行時間 を計測して,実行時間分布を表示する. 計測した実行時間には,時間計測のオーバヘッド(時間計測処理の実行にかか る時間)が含まれる.計測対象の処理の正味の実行時間を求めるためには,計 測された時間から,時間計測のオーバヘッドを計測するためのプログラム (perf0)で計測された時間を減算する必要がある. また,実行時間の計測は,別に記述がない限り割込みを許可したまま行うため, 割込みハンドラ(少なくとも,タイマ割込みハンドラ)の処理時間が含まれた 実行結果が計測される. カーネルの性能評価にあたっては,ハードウェア(特にキャッシュ)の設定に 留意する必要がある. 性能評価プログラムはテストプログラム用サービスと実行時間分布集計サービ スを使用しているため,構築する場合には,コンポーネント記述ファイルに perf_pf.cdlを使用する必要がある.コンフィギュレーションスクリプトを使用 する場合には,-Cオプションでperf_pf.cdlを指定する.具体的には,次のコマ ンドを実行すればよい(構築用のディレクトリが,ASP3カーネルのソースファ イルを展開したディレクトリの直下にあると仮定している). % ruby ../configure.rb -T <ターゲット略称> -a ../test \ -A <性能評価プログラム名> -C perf_pf.cdl 現バージョンで用意している性能評価プログラムは次の通り. (1) perf0 時間計測のオーバヘッドの評価 時間計測のオーバヘッドを計測するためのプログラム.具体的には,空のプロ グラム(begin_mearsureとend_measureを続けて呼び出すプログラム)の実行時 間を計測する. 他の性能評価プログラムで計測された時間から,このプログラムで計測された 時間を減算した時間が,計測対象の処理の正味の実行時間である. (2) perf1 slp_tsk,wup_tskによるタスク切換え時間の評価 slp_tsk,wup_tskによるタスク切換え時間を計測するためのプログラム.具体 的には,高い優先度のタスクが起床待ち状態である時に,低い優先度のタスク がwup_tskにより高い優先度のタスクを起床し,高い優先度のタスクに切り換わ るまでの時間と,高い優先度のタスクがslp_tskにより起床待ち状態となり,低 い優先度のタスクに切り換わるまでの時間を計測する. (3) perf2 snd_pdqの処理時間の評価 優先度データキューに蓄積されているデータの数により,snd_pdqの処理時間が どのように変化するかを計測するためのプログラム.具体的には,優先度デー タキュー中に高い優先度のデータがn個蓄積されている時に,snd_dtqにより低 い優先度のデータを入れるのにかかる時間を計測する.nを0,10,20,30,40, 50,100,200,300と変化させて計測する. (4) perf3 set_flgの処理時間の評価 待ち解除するタスクの数により,set_flgの処理時間がどのように変化するかを 計測するためのプログラム.具体的には,TA_WMUL属性のイベントフラグに対し て,n個のタスクが待っている時に,set_flgによりそのすべてを待ち解除する のにかかる時間を計測する.nを0,1,2,3,4,5,10,20と変化させて計測す る. (5) perf4 act_tskの処理時間とタスク切換え時間の評価 act_tskの処理時間とタスク切換え時間を計測するためのプログラム.具体的に は,(1) タスクコンテキストから呼び出し,タスク切換えを起こさない act_tskの処理時間,(2) タスクコンテキストから呼び出し,タスク切換えを起 こすact_tskの処理時間(タスク切換え時間を含む),(3) 非タスクコンテキス トから呼び出し,タスク切換えを起こすact_tskの処理時間(タスク切換え時間 とタイマ割込み中で実行されるシステム時刻の更新処理時間を含む)の3つの時 間を計測する. (6) perf5 タイムイベント処理時間の評価 タイムイベントヒープ操作のオーバヘッドにより,sta_alm,stp_almの処理時 間がどのように変化するかを計測するためのプログラム.具体的には,タイム イベントヒープ中でのノードの交換回数が,ない場合,少ない場合,多い場合 で,sta_almとstp_almの処理時間を計測する. 11.使用上の注意とヒント 11.1 実行時間と割込み禁止時間に関する注意事項 ASP3カーネルの各サービスコールは,可能な限り,最大実行時間が一定値とな るように実装しているが,そのように実装できない状況があり,最大実行時間 が何らかのパラメータに依存する場合がある.またASP3カーネルでは,カーネ ルの処理のほぼ全体をカーネル管理の割込みを禁止した状態(CPUロック状態と 同等)で実行するため,そのような場合には,最大割込み禁止時間も何らかの パラメータに依存することになる. 以下では,サービスコールの実行時間および割込み禁止時間が,何らかのパラ メータに依存する場合について説明する. (1) set_flgにより複数のタスクが待ち解除される場合 TA_WMUL属性であり,TA_CLR属性でないイベントフラグに対するset_flgにより, 複数のタスクが待ち解除される場合がある.この場合,サービスコールの実行 時間およびカーネル内での割込み禁止時間が,待ち解除されるタスクの数の数 のオーダで長くなる.この実行時間の伸びを計測するために,性能評価プログ ラムperf3を用意している. また,TA_WMUL属性のイベントフラグに対するset_flgの実行時間およびカーネ ル内での割込み禁止時間は,対象イベントフラグ待ち状態のタスク(待ち解除 されないタスクも含む)の数のオーダでも長くなるが,これによる実行時間お よび割込み禁止時間の変化はわずかであり,実際の影響は小さい. (2) ini_yyyにより複数のタスクが待ち解除される場合 対象オブジェクト待ち状態のタスクが複数あると,ini_yyyにより,複数のタス クが待ち解除される.この場合,サービスコールの実行時間およびカーネル内 での割込み禁止時間が,待ち解除されるタスクの数のオーダで長くなる. (3) タスク優先度順の待ち行列にタスクが挿入される場合 待ち行列がタスクの優先度順になっている同期・通信オブジェクトに対して, タスクが待ち状態になる場合,サービスコールの実行時間およびカーネル内で の割込み禁止時間が,すでに待っているタスク(の中で新たに待ち状態になる タスクより優先度が高いか同じもの)の数のオーダで長くなる.ただし,これ による実行時間および割込み禁止時間の変化はわずかであり,実際の影響は小 さい. (4) 優先度データキューにデータを送信する場合 優先度データキューに対してデータを送信する場合,サービスコールの実行時 間およびカーネル内での割込み禁止時間が,すでに優先度データキュー管理領 域に格納されているデータ(の中で新たに送信されたデータより優先度が高い か同じもの)の数のオーダで長くなる.ただし,これによる実行時間および割 込み禁止時間の変化はわずかであり,実際の影響は小さい. (5) タイムイベント処理時間 タイムイベントを登録または登録解除する場合,サービスコールの実行時間お よびカーネル内での割込み禁止時間が,すでに登録されているタイムイベント の対数オーダで長くなる.また,高分解能タイマ割込みの実行時間およびその 中での割込み禁止時間も,同様に長くなる.ただし,時間の伸びが対数オーダ であることから,実際の影響は限られている.この実行時間の伸びを計測する ために,性能評価プログラムperf5を用意している. 11.2 assertマクロの処理 ASP3カーネルのコード中には,assertマクロが使われている.assertマクロの 定義はt_stddef.hに含まれ,assertが失敗した場合の最後の処理(通常は,プ ログラムを停止させる処理)は,ターゲット依存部のTOPPERS_assert_abortで 決定される. assertが失敗した場合,システム開発中はデバッガに落とすのが望ましいが, システム稼働時の対処法は,システムに対する要件に依存する.そこで,ター ゲット依存部のTOPPERS_assert_abortを,システム要件に合致した適切な処理 に置き換える必要がある.システム要件によっては,NDEBUGを定義してassert マクロの処理をオブジェクトコード中から消す(「6.2 コンパイルオプション」 の節を参照)方法も考えられる. 11.3 システムログ機能の扱い ASP3カーネルでは,システム開発時の利便性を考慮し,システムログ機能を組 み込む設定をデフォルトとしている. それに対して,ASP3カーネルを用いたシステムを機器に組み込む場合は,シス テムログ機能が意味がない場合も多い.機器への組込みに際してのシステムロ グ機能の設定方法には,以下の方法が考えられる. (1) システムログ機能を用いない システムログ機能を一切使用しない場合には,システムログ機能をシステムに 組み込まず,システムログ機能のサービスコールを呼び出すソースファイルを TOPPERS_OMIT_SYSLOGを定義してコンパイルすればよい.詳しくは,「8.1.8 シ ステムログ機能の組込みと取外し」の節を参照すること. (2) ログ情報の蓄積のみを行う 機器に組み込んだ状態で,シリアルポート等を介してシステムを外部と接続す ることができる場合には,システム稼働時にはログ情報の蓄積のみを行い,シ ステムに障害が起きた時などにログ情報を取り出すことで,障害の原因分析の 助けとすることができる. 具体的な設定方法として,次の2つの方法が考えられる. (2-1) 低レベル出力をメモリに蓄積する 必要なログ情報を低レベル出力機能を用いて出力するように設定し,低レベル の文字出力関数に送られた文字をメモリ(典型的にはリングバッファ)に蓄積 するようにする.システムの障害時には,そのメモリ領域を読み出す.ターゲッ ト依存部の低レベル出力の変更が必要である. (2-2) システムログ機能のログバッファに蓄積する 必要なログ情報をシステムログ機能のログバッファに記録するように設定する. システムログタスクを動作させないと,ログ情報はログバッファに蓄積されて いく.システムの障害時には,ログバッファの領域を読み出すか,システムロ グタスクを動作させてログ情報を出力させる. (3) 開発時の設定のままとする システムログ機能の設定を,システム開発時のまま変更せず,シリアルポート 等にログ情報を垂れ流す方法も考えられる. 11.4 オブジェクトIDの管理 ASP3カーネルでは,オブジェクトのID番号を,コンフィギュレータが割り付け る方法が基本となっている. アプリケーションプログラム中でオブジェクトのID番号を参照する場合には, 次の2つの方法が考えられる. (1) オブジェクト識別名を用いる オブジェクト生成のための静的API(CRE_YYY)の第1パラメータに記述したオブ ジェクト識別名を,アプリケーションプログラム中でも用いる方法. コンフィギュレータは,オブジェクト識別名を,割り付けたID番号にマクロ定 義するC言語プリプロセッサのディレクティブ(#define)をkernel_cfg.hに生 成するため,アプリケーションプログラムからkernel_cfg.hをインクルードす る必要がある. この方法は,オブジェクトコード中にID番号が直接埋め込まれるために実行効 率が良い一方で,システムコンフィギュレーションファイルが変更されて kernel_cfg.hが書き換わる度に,アプリケーションプログラムの再コンパイル が必要になるという欠点がある.そのため,アプリケーションプログラムを構 成するファイルの中で,一部のファイルのみでオブジェクト識別名を参照する 構成にするといった工夫をすることが望ましい. (2) オブジェクトのID番号を保持する変数を用いる オブジェクトのID番号を保持するconst属性を付加した変数を用意し,アプリケー ションプログラム中では,その変数を用いる方法. 例えば,TASK1というオブジェクト識別名のタスクに対して,次のような変数を 用意する. const ID TASK1_id = TASK1; アプリケーションプログラム中では,この変数(TASK1_id)を用いることで, システムコンフィギュレーションファイルが変更されてkernel_cfg.hが書き換 わった時にも,上記の変数定義を含んだファイルのみを再コンパイルすればよ いことになる. この方法は,アプリケーションプログラムの再コンパイルを最小限にできる利 点がある一方で,変数のためのメモリ領域が必要になることに加えて,(プロ セッサによっては)変数アクセスのためのオーバヘッドが生じるという欠点が ある.また,定数ではなく変数であることから,他の変数の初期化には使えな いという制限がある. なお,ASP3カーネルのコンフィギュレータは,コンパイルオプションに -DUSE_EXTERNAL_IDを指定することにより,上記の変数定義をkernel_cfg.c中に 生成する機能を持っているので,すべてのオブジェクトIDをこの方法で参照す る場合には,この機能を用いることを推奨する. コンフィギュレータによるID番号割付けのもう1つの課題として,システムコン フィギュレーションファイルの修正により,オブジェクトIDの割付けが変わっ てしまうことが挙げられる.これは,アプリケーションソフトウェアの設計仕 様書にID番号が記載されている場合や,デバッグ作業においてID番号を直接扱っ ている場合に,作業効率を低下させる可能性が考えられる. この問題に対応するために,ASP3カーネルのコンフィギュレータに,ID番号の 割付け結果をファイルに書き出す機能(--id-output-fileオプション)と,ID 番号の割付けをファイルから取り込む機能(--id-input-fileオプション)を用 意している.これらの機能を用いて,コンフィギュレータを実行する度に,前 回に実行した時にファイルに書き出したID番号の割付けを取り込むことで,前 回実行時と同じ割付けを行うことができる.ただし,ASP3カーネルでは,ID番 号に抜けがあるのは許されないため,オブジェクトの数が減った場合には(ID 番号が大きい方のオブジェクトが減った場合を除いて)エラーとなる.この場 合には,ダミーのオブジェクトを生成する方法で回避するしかない. 11.5 カーネルの内部シンボルのリネーム ASP3カーネルでは,モジュール内部の名称が他のモジュール内部の名称と衝突 することを避けるために,カーネルの内部シンボルは,C言語レベルで,先頭が "_kernel_"または"_KERNEL_"である名称としている. これをソースコードの可読性と両立させるために,ASP3カーネルでは,ソース コードは自然な名前を用いて記述し,C言語プリプロセッサのマクロ定義 (#define)を用いて,それを"_kernel_"または"_KERNEL_"で始まる名前(自然 な名前がyyyの場合には,_kernel_yyy)にリネームする仕組みを用いている. 具体的には,関連するディレクトリにxxx_rename.defを置き,そこからリネー ムのためのヘッダファイル(xxx_rename.hおよびxxx_unrename.h)を生成する ツール(utils/genrename.rb)を用意している. この仕組みは,ソースコードの可読性向上に役立つ一方で,弊害もある.例え ば,多くのデバッガで,ソースコード中の名称とオブジェクトコード中の名称 が異なるために,ソースコード中の変数名を指定して値を読んだり,関数名を 指定してブレークポイントを置くといったことができない. この状況に対応するために,ASP3カーネルでは,ソースコード中の該当する名 称をリネームするためのユーティリティ(utils/applyrename.rb)を用意して いる.このユーティリティに,リネーム定義ファイル(xxx_rename.def)のプ リフィックス(xxxの部分)と,リネームしたいファイルリストを与えると,リ ネーム処理を行なう.例えば,kernelディレクトリのすべてのファイルに対し て,カーネルの内部シンボルをリネームするには,次のコマンドを実行すれば よい. % cd kernel % ruby ../utils/applyrename.rb kernel * また,ターゲット依存部のディレクトリのすべてのファイルに対して,カーネ ルの内部シンボルをリネームするには,次のようなコマンドを実行すればよい. % cd target/ct11mpcore_gcc/ % ruby ../../utils/applyrename.rb target * % ruby ../../utils/applyrename.rb ../../kernel/kernel * 11.6 トレースログ記録のサンプルコードの使用方法 トレースログ記録のサンプルコードがターゲット依存部に組み込まれている場 合には,コンフィギュレーションスクリプトにそれを使用することを指示する オプション(-r)を付加し,コンポーネント記述ファイルに以下の記述を含め ることで,メモリ上にトレースログを記録する機能が有効になる. ---------------------------------------- /* * トレースログ機能の組上げ記述 */ import("arch/tracelog/tTraceLog.cdl"); cell tTraceLog TraceLog { logBufferSize = 1024; /* ログバッファのサイズ */ initialMode = C_EXP("TRACE_RINGBUF"); /* 低レベル出力との結合 */ cPutLog = PutLogTarget.ePutLog; }; ---------------------------------------- この記述を変更することで,トレースログ機能のログバッファのサイズを変更 することができる. initialModeをTRACE_RINGBUFにすることで,システム起動時にトレースログの 記録を開始する.ここに指定できる動作モードは,以下のいずれかである. TRACE_STOP トレース停止 TRACE_RINGBUF リングバッファモード TRACE_AUTOSTOP 自動停止モード また,システム終了時に,記録したトレースログをダンプするためには,コン ポーネント記述ファイル次の記述を追加する(トレースログを別の方法で取り 出す場合には,この記述は不要). ---------------------------------------- cell tTerminateRoutine TraceLogTerminate { cTerminateRoutineBody = TraceLog.eDump; }; ---------------------------------------- この方法では,トレースログのダンプを終了処理ルーチンで行ってているため, 終了処理ルーチンを呼び出した後のトレースログは出力されない.終了処理ルー チンを呼び出した後に実行される処理でトレースログ記録の機能を利用するた めには,トレースログのダンプを適切な場所で行うように修正することが必要 である. 11.7 システムの起動時の初期化処理 システムの起動時にアプリケーションで必要となる初期化処理を行うための機 能として初期化ルーチンが用意されているが,初期化ルーチンが実行されるよ りも早いタイミングで実行することが必要な初期化処理がある場合がある. このような場合に用いるために,標準的なスタートアップモジュールから,ター ゲットシステム依存の初期化フック(hardware_init_hook)を呼び出すことと している.hardware_init_hookは,カーネルのターゲット依存部で用意されて いるのが標準であるが,これをアプリケーションで用意したものに置き換え, その中でアプリケーションで必要となる初期化処理を行うことができる. ただし,hardware_init_hookの作成する場合には,bssセクションとdataセクショ ンが初期化されていないことや,ライブラリが初期化されていないこと,C言語 で記述できるとは限らないことなどに注意が必要である.作成にあたっては, 「ターゲット依存部 ポーティングガイド」を参照すること. カーネルのスタートアップモジュールがhardware_init_hookを呼び出すように 実装されていない場合には,スタートアップモジュールをアプリケーションで 用意したものに置き換える方法を推奨する. 11.8 rodataセクションをRAMに置く場合 何らかの理由でrodataセクションをRAMに置く場合,dataセクションと同様に, その初期値はROMに置き,スタートアップモジュールでRAMにコピーするのが素 直である.これを実現するには,dataセクションの取扱いを参考に,リンカス クリプトとスタートアップモジュールを修正する必要があるが,それに加えて, 以下の措置が必要である. コンフィギュレータは,パス1とパス3において,ロードモジュールのシンボル ファイルを用いて,ロードモジュール内のrodataセクションを読み込むことで, 各種の定数値を取得する.そのため,rodataセクションをdataセクションと同 様に扱うと,そのアクセスアドレス(RAM内のアドレス,VMAと呼ぶ)と配置ア ドレス(ROM内のアドレス,LMAと呼ぶ)が一致しなくなるために,定数値を取 得することができず,エラーとなる. パス1でのエラーを回避するためには,パス1のリンク時(cfg1_outをリンクす る時)には,rodataセクションのアクセスアドレスと配置アドレスを一致させ るリンカスクリプト(標準のリンカスクリプトはこのようになっている)を用 いる.標準のMakefileでは,LDSCRIPTによりリンカスクリプトを指定するので はなく,LDFLAGSとCFG1_OUT_LDFLAGSに異なるリンカスクリプトを用いるオプショ ンを設定すればよい. パス3でのエラーを回避するためには,コンフィギュレータのパス3の生成スク リプトにおいて,rodataセクションの内容を,配置アドレスからアクセスアド レスにコピーする.そのためには,パス3の生成スクリプトのターゲット依存部 で,$lmaListを設定すればよい.具体的な方法は,「ターゲット依存部 ポーティ ングガイド」を参照すること. 12.参考情報 12.1 利用条件と利用報告 ASP3カーネルの利用条件は,各ファイルの先頭に表示されている.著作権は, 各ファイルの先頭に表示されている著作権者が保有している. 利用条件の(3)の(b)において,利用の形態をTOPPERSプロジェクトに報告する方 法としては,ASP3カーネルを利用した製品の名称と応用分野,製品化した会社 名と業種等の情報を,以下のURLのページから報告するものとする. http://www.toppers.jp/report.html またその際に,ASP3カーネルを使用してのコメントやご意見もいただけると幸 いである. 12.2 保証・適用性・サポート ASP3カーネルは無保証で提供されているものである.開発者およびTOPPERSプロ ジェクトは,ASP3カーネルに関して,特定の使用目的に対する適合性も含めて, いかなる保証も行わない.また,ASP3カーネルの利用により直接的または間接 的に生じたいかなる損害に関しても,その責任を負わない. 開発者およびTOPPERSプロジェクトは,ASP3カーネルに関するサポートの約束は していない.ASP3カーネルに関して質問がある場合は,後述のTOPPERSユーザー ズメーリングリストを利用していただけると幸いである.確実なサポートが必 要な場合には,有償でサポートサービスを提供している会社に相談されたい. 12.3 バグレポート ASP3カーネルにバグや問題点を発見された場合には,後述のTOPPERSユーザーズ メーリングリストに報告して欲しい. メーリングリストにバグや問題点などを報告する場合には,必要に応じて次の 情報を知らせて欲しい. 使用しているカーネルに関する情報 ・ターゲット非依存部のバージョン ・使用しているターゲット依存部とそのバージョン ・TOPPERSプロジェクトからのリリースに対する改造箇所(あれば) ターゲットシステムに関する情報 ・ターゲットプロセッサの種類 ・ターゲットボード等の種類 ホストに関する情報 ・OSのバージョン(サービスパックの適用状況も) ・コンパイラなどの開発環境のバージョン(Cygwinのバージョンも) 12.4 ウェブサイト TOPPERSプロジェクトのウェブサイトは,以下のURLにある. http://www.toppers.jp/ TOPPERSプロジェクトやASP3カーネルに関する最新情報は,このウェブサイトか ら得ることができる.また,ASP3カーネルの最新版は,このウェブサイトから ダウンロードすることができる. 12.5 TOPPERSユーザーズメーリングリスト ASP3カーネルを含むTOPPERSプロジェクトの開発成果物のユーザに対する情報提 供およびユーザ相互間の情報交換を容易にするために,TOPPERSユーザーズメー リングリスト(users@toppers.jp)を用意している. このメーリングリストには,誰でも自由に登録し,メールを送付することがで きる(登録者以外はメールを送付できない).また,送付されたメールは,誰 でも自由にウェブサイトで読むことができる. メーリングリストへの登録方法については,以下のURLのページに説明がある. http://www.toppers.jp/community.html 12.6 TOPPERSプロジェクトのメンバ向けのサービス TOPPERSプロジェクトのメンバに対しては,上記に加えて,ASP3カーネルに関連 して次のサービスを用意している. (1) TOPPERS開発者メーリングリスト TOPPERSプロジェクトのメンバは,ASP3カーネルに関する質問,バグや問題点な どの報告に,TOPPERS開発者メーリングリスト(dev@toppers.jp)を利用するこ とができる. (2) ASP3カーネルの開発支援サイト ASP3カーネルの開発支援のためのTRAC(バグトラッキングシステム)が,以下 のURLにある(TRACへのアクセスには,会員パスワードが必要である). http://dev.toppers.jp/trac/asp3/ TOPPERSプロジェクトのメンバは,このサイトから,ウェブインタフェースおよ びsubversionサーバにより,ASP3カーネルの開発中のバージョンを得ることが できる.また,バグトラッキングデータベースにアクセスすることができ,過 去のバグ履歴へのアクセスや,バグの登録をすることができる. 12.7 TOPPERSプロジェクトへの参加 TOPPERSプロジェクトでは,何からの形でプロジェクトに貢献していただける方, プロジェクトで開発したソフトウェアをお使いの方,プロジェクトに興味をお 持ちの方の参加を求めている.TOPPERSプロジェクトへの参加方法については, 以下のページに説明がある. http://www.toppers.jp/joinus.html 13.リファレンス 13.1 サービスコール一覧 (1) タスク管理機能 ER ercd = act_tsk(ID tskid) ER_UINT actcnt = can_act(ID tskid) ER ercd = get_tst(ID tskid, STAT *p_tskstat) ER ercd = chg_pri(ID tskid, PRI tskpri) ER ercd = get_pri(ID tskid, PRI *p_tskpri) ER ercd = get_inf(intptr_t *p_exinf) ER ercd = ref_tsk(ID tskid, T_RTSK *pk_rtsk) (2) タスク付属同期機能 ER ercd = slp_tsk(void) ER ercd = tslp_tsk(TMO tmout) ER ercd = wup_tsk(ID tskid) ER_UINT wupcnt = can_wup(ID tskid) ER ercd = rel_wai(ID tskid) ER ercd = sus_tsk(ID tskid) ER ercd = rsm_tsk(ID tskid) ER ercd = dly_tsk(RELTIM dlytim) (3) タスク終了機能 ER ercd = ext_tsk(void) ER ercd = ras_ter(ID tskid) ER ercd = dis_ter(void) ER ercd = ena_ter(void) bool_t state = sns_ter(void) ER ercd = ter_tsk(ID tskid) (4) 同期・通信機能 ER ercd = sig_sem(ID semid) ER ercd = wai_sem(ID semid) ER ercd = pol_sem(ID semid) ER ercd = twai_sem(ID semid, TMO tmout) ER ercd = ini_sem(ID semid) ER ercd = ref_sem(ID semid, T_RSEM *pk_rsem) ER ercd = set_flg(ID flgid, FLGPTN setptn) ER ercd = clr_flg(ID flgid, FLGPTN clrptn) ER ercd = wai_flg(ID flgid, FLGPTN waiptn, MODE wfmode, FLGPTN *p_flgptn) ER ercd = pol_flg(ID flgid, FLGPTN waiptn, MODE wfmode, FLGPTN *p_flgptn) ER ercd = twai_flg(ID flgid, FLGPTN waiptn, MODE wfmode, FLGPTN *p_flgptn, TMO tmout) ER ercd = ini_flg(ID flgid) ER ercd = ref_flg(ID flgid, T_RFLG *pk_rflg) ER ercd = snd_dtq(ID dtqid, intptr_t data) ER ercd = psnd_dtq(ID dtqid, intptr_t data) ER ercd = tsnd_dtq(ID dtqid, intptr_t data, TMO tmout) ER ercd = fsnd_dtq(ID dtqid, intptr_t data) ER ercd = rcv_dtq(ID dtqid, intptr_t *p_data) ER ercd = prcv_dtq(ID dtqid, intptr_t *p_data) ER ercd = trcv_dtq(ID dtqid, intptr_t *p_data, TMO tmout) ER ercd = ini_dtq(ID dtqid) ER ercd = ref_dtq(ID dtqid, T_RDTQ *pk_rdtq) ER ercd = snd_pdq(ID pdqid, intptr_t data, PRI datapri) ER ercd = psnd_pdq(ID pdqid, intptr_t data, PRI datapri) ER ercd = tsnd_pdq(ID pdqid, intptr_t data, PRI datapri, TMO tmout) ER ercd = rcv_pdq(ID pdqid, intptr_t *p_data, PRI *p_datapri) ER ercd = prcv_pdq(ID pdqid, intptr_t *p_data, PRI *p_datapri) ER ercd = trcv_pdq(ID pdqid, intptr_t *p_data, PRI *p_datapri, TMO tmout) ER ercd = ini_pdq(ID pdqid) ER ercd = ref_pdq(ID pdqid, T_RPDQ *pk_rpdq) ER ercd = loc_mtx(ID mtxid) ER ercd = ploc_mtx(ID mtxid) ER ercd = tloc_mtx(ID mtxid, TMO tmout) ER ercd = unl_mtx(ID mtxid) ER ercd = ini_mtx(ID mtxid) ER ercd = ref_mtx(ID mtxid, T_RMTX *pk_rmtx) (5) メモリプール管理機能 ER ercd = get_mpf(ID mpfid, void **p_blk) ER ercd = pget_mpf(ID mpfid, void **p_blk) ER ercd = tget_mpf(ID mpfid, void **p_blk, TMO tmout) ER ercd = rel_mpf(ID mpfid, void *blk) ER ercd = ini_mpf(ID mpfid) ER ercd = ref_mpf(ID mpfid, T_RMPF *pk_rmpf) (6) 時間管理機能 ER ercd = set_tim(SYSTIM systim) ER ercd = get_tim(SYSTIM *p_systim) ER ercd = adj_tim(int32_t adjtim) HRTCNT hrtcnt = fch_hrt(void) ER ercd = sta_cyc(ID cycid) ER ercd = stp_cyc(ID cycid) ER ercd = ref_cyc(ID cycid, T_RCYC *pk_rcyc) ER ercd = sta_alm(ID almid, RELTIM almtim) ER ercd = stp_alm(ID almid) ER ercd = ref_alm(ID almid, T_RALM *pk_ralm) (7) システム状態管理機能 ER ercd = rot_rdq(PRI tskpri) ER ercd = get_tid(ID *p_tskid) ER ercd = get_lod(PRI tskpri, uint_t *p_load) ER ercd = get_nth(PRI tskpri, uint_t nth, ID *p_tskid) ER ercd = loc_cpu(void) ER ercd = unl_cpu(void) ER ercd = dis_dsp(void) ER ercd = ena_dsp(void) bool_t state = sns_ctx(void) bool_t state = sns_loc(void) bool_t state = sns_dsp(void) bool_t state = sns_dpn(void) bool_t state = sns_ker(void) ER ercd = ext_ker(void) (8) 割込み管理機能 ER ercd = dis_int(INTNO intno) ER ercd = ena_int(INTNO intno) ER ercd = chg_ipm(PRI intpri) ER ercd = get_ipm(PRI *p_intpri) (9) CPU例外管理機能 bool_t stat = xsns_dpn(void *p_excinf) 13.2 静的API一覧 (1) タスク管理機能 CRE_TSK(ID tskid, { ATR tskatr, intptr_t exinf, TASK task, PRI itskpri, size_t stksz, STK_T *stk }) (4) 同期・通信機能 CRE_SEM(ID semid, { ATR sematr, uint_t isemcnt, uint_t maxsem }) CRE_FLG(ID flgid, { ATR flgatr, FLGPTN iflgptn }) CRE_DTQ(ID dtqid, { ATR dtqatr, uint_t dtqcnt, void *dtqmb }) CRE_PDQ(ID pdqid, { ATR pdqatr, uint_t pdqcnt, PRI maxdpri, void *pdqmb }) CRE_MTX(ID mtxid, { ATR mtxatr, PRI ceilpri }) (5) メモリプール管理機能 CRE_MPF(ID mpfid, { ATR mpfatr, uint_t blkcnt, uint_t blksz, MPF_T *mpf, void *mpfmb }) (6) 時間管理機能 CRE_CYC(ID cycid, { ATR cycatr, <通知方法の指定>, RELTIM cyctim, RELTIM cycphs }) CRE_ALM(ID almid, { ATR almatr, <通知方法の指定> }) (8) 割込み管理機能 CFG_INT(INTNO intno, { ATR intatr, PRI intpri }) CRE_ISR(ID isrid, { ATR isratr, intptr_t exinf, INTNO intno, ISR isr, PRI isrpri }) DEF_INH(INHNO inhno, { ATR inhatr, INTHDR inthdr }) (9) CPU例外管理機能 DEF_EXC(EXCNO excno, { ATR excatr, EXCHDR exchdr }) (10) システム構成管理機能 DEF_ICS({ size_t istksz, STK_T *istk }) ATT_INI({ ATR iniatr, intptr_t exinf, INIRTN inirtn }) ATT_TER({ ATR teratr, intptr_t exinf, TERRTN terrtn }) 13.3 バージョン履歴 2014年11月24日 Release 3.A.0 最初の早期リリース(α版) 2015年8月5日 Release 3.B.0 2016年2月8日 Release 3.0.0 最初の一般公開 2016年2月14日 Release 3.0.1 2016年5月15日 Release 3.1.0 以上